6/10 (土) 22:30 絆

すっかり味をしめた僕たちは今夜も夜のデートへ。

普段外を歩くこともしない(出来ない)僕にとっては、予想以上の解放感が快感で、今日の朝は加藤と一緒にジョギングをしたくらいだ。このまま学校に住みついてしまいたい・・・なんて少し思ったりして。まあ、みんなには抜け出したことがバレて、冷やかされたけど。

「実は文化祭のことを考えていてね、ちょっと変わったことをやりたいんだ」

「今度はどんな?」

「深雪、歌ってみる?」

え!とビックリして見上げてくる。時々流行の歌などを口ずさんでいたりするところからひらめいたんだけど。

「ミュージカルなんてどうかな?実は吉岡に探りを入れてみたら、彼はかなり踊れるみたいだよ」

「それ本気で?」

かなり真剣に考えているよ。三年生にとっては最後の発表の場、しかもコンクールとは関係ないから、自由に楽しいことをやってみたいんだよね。

「ただやろうと思ったら、夏休みの強化練習が必須になってくるだろ?みんなついてこれると思う?」

どうかな?と考えている様子。

「やってみたことがないから、なんとも言えないな。でもみんなは新しいものが好きだったりするし、希にとっては最後の舞台だから、素敵な思い出を作ってあげたいと思ってるよ。部長には?」

「いろいろ相談はしてるけど、ちょっと消極的かな?・・・でもアイディアの候補はいろいろあるんだ、歴史モノをやってみたいとか、深雪とラブシーンをしたいとか・・・」

「それは冗談でしょ?」

「さすがにね」

・・・そこまで自信過剰じゃないよ。

「じゃあ、明日みんなに相談してみるよ。この合宿でかなりいい感じにまとまってきたからな」

「清水先輩も来てくれるしね」

そう、お願いしてみたら快く来てくれるということで、楽しみだ。もちろん作品を見てもらうことがメインだけど、変に落ち込んでいないか、僕的にはそっちのほうが気になっている・・・。

それはさておき、以前から考えていたことだったけど、今日の練習を見ていてますます考えてしまっていることがある。深雪の将来・・・。

今回深雪は、校則がなくなろうが無関心で、ただぼんやり毎日を送っているという役どころ。実は吉岡が演じる弾けるタイプよりは、こういうタイプのほうが厄介だ。・・・それは演じるということと、実際にどうにかするという両方にかかっていることなんだけど、彼女はどこで研究したのかかなりけだるい様子を好演していると思う。アクションが少ないので普通にしていると目立たないのが難しいところ。

もちろん普段そこまではだらけていないし、僕のごく近くにはそういうタイプの人間がいないのでよくわからないが、引き具合が非常にうまい。本当につまらなそうな顔をするので、心配でドキドキしてしまうくらいだ。

・・・僕の望みだけで将来を決めてはいけないという気持ちが、だんだん大きくなってきている。

「深雪は、演劇を続けていきたいと思ったことはないの?」

え?またいきなり、と笑って見せて、

「好きだけど、それで生活は出来ないよ。私なんかより上手な人はもっとたくさんいるから」

あれ?・・・そういうところは女の子のほうが現実的だなって気がする。

「だって希がいない部活を想像しただけで、つまんない・・・って思うもん。卒業したら本当にどうしよう。会える時間が減っちゃうよね・・・」

それはしょうがないよな・・・。

「今はこうして会えるけど、手の届かない人になっちゃったりするんだろうね」

「それはないよ、ちゃんと会えるようにする」

弱ったな、こういう展開になるとは思ってなかった。俺だって寂しいけど、ここは心を鬼にして。

「深雪・・・」

「言わないで。十分過ぎるくらい分かってるから。・・・ごめんなさい」

しがみついている腕に更に力を込めてきた。

「謝らなくていい、悪いのは俺のほうなんだから」

「だって結局はいつも同じ話になるじゃない。我慢しているのは一人だけじゃない、目先のことにとらわれず長い目で見ようって。いい加減受け入れなきゃね」

深雪・・・。

「・・・ちょっとは強くなれたかな?」

「うん、とっても」

・・・ちょうど去年のコンクールの練習で親しくなったんだよね。あれから約一年。最初はただ好きだという気持ちだけで寄り添うように一緒にいたけど、二人の思い出が一つずつ増えていくたびに絆も強くなって、だんだん今よりもこれからを考えるようになってきている。

二人で一緒に作る未来。・・・とは言えすぐには一緒に作れない。僕が卒業してからも彼女はもう一年学校に行って、更に進学することになるかもしれない・・・バラバラの生活。でも皇太子としての僕は常に冷静に自分のことを見ている。その期間を乗り越えられるような相手じゃないと、一緒にはなれない、と。これは僕にとっての大きな試練だ。

僕たちはゆっくりかもしれないけれど、着実に前進している・・・していかなければならない。彼女なしの生活なんて考えられないのだから、絶対手離さない!!そのためにはどんなことだってするつもりだ。

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