散々悩んだ挙句発した言葉があまりにあっけなく受理されてしまったので、続ける言葉が見つからなくなってしまった。
「夏のコンクールには出るんでしょ、またそのときにね」
「・・・はい」
「じゃあ、おやすみなさい」
「・・・おやすみなさい」
初めから特別な関係など何もなかったかのように、いつもと変わらない挨拶。一人であれこれ悩んでいたのが、バカバカしい。
「な~んだ~」
通話を切ると、そのまま携帯を投げ出してソファーに倒れこんだ。
「こんなものじゃないよね~」
誰ともなく口にしてしまう。沢渡と深雪ちゃんのようなラブラブカップルのほうが例外なのかな?いつもは冷静沈着な彼が、深雪ちゃんのことに関しては別人のようにたやすく取り乱す。そして兼古先輩と清水先輩は、距離を置いているらしいけど恋人であることには変わりがないという。
いろんな恋愛の形があると思うけど、そもそも僕のは恋愛と呼べるものだったのだろうか?こうして別れ話をした直後でも、よく言うような、胸をえぐられる想いなどどこにもない。ただ、心の中に静かな波が打ち寄せては返すだけ。
曲がりなりにも、最初はメールを書くだけで、電話をするだけでドキドキしたのに・・・、それも今となっては信じられない。
・・・一体何だったのだろう?