「確かに、まるで腫れ物にでも触るかのような接し方だよな」
その言い方が妙にわざとらしかった。そうか、沢渡くんを介してそれを指摘したのか。
「だって最近、俺の言うことを全然聞き入れないし」
「駄目なんだよ。沢渡くん相手となると、どうも感情が入り込んできてしまって」
「気持ちは分かるけど、折角沢渡が大人になろうと頑張っているのに水を差すようなことをするなって。大体、お前がいくら心配したって何も変わらないし」
・・・もう、そういうこと言わないでよ。ただでさえもどかしい思いをしているのに。
「ところでお前のほうは大丈夫なのかよ。そんな様子だと、舞さんに飽きられてしまうぞ」
「・・・否定できません」
「随分素直だな、嫌味だったのに」
「うるさいよ、もう」
ああ、何だかイライラする。仕事も恋愛も順調にいっているはずなのに、引っかかる唯一のことが僕にとっては大きすぎる。ただ日が過ぎるのを待つことしかできないなんて・・・辛すぎる。
「しょうがない、最後の夜だから、な。着替えてこいよ」
最後の夜って・・・。沢渡くんも誘うということ!
「ただし、有紗さんがいいって言ったらな」
あ・・・。
しかし無事に了解が得られたようで、駐車場で待っていると無事に沢渡くんが結城の肩に手を載せて登場した。
「ごめんね沢渡くん、こんな夜遅くに」
「いえ、殿下からのお誘いなら喜んで」
「ただし一つ条件がある。沢渡の面倒はお前が見ること」
結城は自分の肩に載っていた手を僕の方へと移し替えると、さっさと運転席へと向かった。
「早く。あんまり時間がないから」
分かったよ。大丈夫だろうかと心配しながら、おっかなびっくりでドアを開けると、沢渡くんが後ろからドアを持ち、どうぞお先に、と言った。そして僕が乗ると、自分も乗り込んで速やかにドアを閉めた。
「大丈夫、響が思っているほど手はかからないから」
車は近くの海へ。着くなり沢渡くんは、僕たちが行き先を言っていなかったのにもかかわらずその場所を言い当て、僕たちには口にできない感覚的な意見をいろいろと述べてくれた。・・・案ずるより産むが易しというわけか。やっぱり直接触れてみないと分からないことは多々あるのだ。これは仕事に対しての教訓としてもとらえておかないと・・・。