部活が終わったときに村野さんがやってきた。
「ちょっと、話があるんだけど、いい?」
うわ~、今日はすぐ帰ると言ってしまったし、困ったな。
「ゴメン、今忙しくて。・・・送っていくから、車の中で話をするってことでもいいかな?」
それしか方法はない。
村野さんは車の中を見回し、これって防弾ガラス?と聞いた。もちろん、そうだよ。
「ねえ、深雪ちゃんのことをちゃんと見てるの?今日のお昼も、言いがかりをつけられていたみたいよ」
ウソ。部活のときの様子は、いつもと変わりがなかったようだけど・・・。
「僕って、そんなに露骨?」
これまでは、ポーカーフェイスだと言われることが多かったのにな。
「え?何のこと?」
「彼女と付き合っていること」
朝霧が一瞬たじろいでしまったほど大きな声を、村野さんは出した。・・・この調子なら大丈夫ってことだよね。
「大丈夫じゃないわよ!・・・って私が言ってもしょうがないか。それは二人の自由だし・・・」
「分かっているよ。当分は全国大会とか議会とかで忙しいから、公にしないつもり」
「ならよかった。もちろん、その子たちも付き合っていることは知らずに、部活のことだけで言いがかりをつけていたようだったから、沢渡くんが出て行くことはないわ」
でも、僕は彼女のことを守りたい。・・・僕のことで迷惑をかけてしまっているなら尚更。
「でも待って、いつから付き合っているの?」
「月曜日に告白した」
「それってやっぱり、腕のことと関係があるわけ?」
・・・頼むからそのことは聞かないで。それを思うともっと尚更、今は時期が悪いということだ。
付き合うことになったものの、彼氏らしいことはしてあげられない、ましてや、人前で一緒にいることすらもできない・・・、こんな僕で、彼女は満足してくれる・・・わけない。
「でもありがとう、彼女のことを教えてくれて。村野さんまで微妙な立場にさせてしまってゴメンね」
「いいのよ。沢渡くんを見ていると、何だか世話を焼きたくなって仕方がないのよね」
・・・また言われてしまった。そんなに頼りないのかな、僕は。