「ねえねえ、演劇部のオーディション受ける?」
「凄く倍率高そうだよね。でも沢渡先輩と同じ舞台に立ってみたい~」
「それより、とりあえずオーディションに出れば名前を覚えてくれるよね」
どいつもこいつも、沢渡先輩、沢渡先輩って。アノヒトがそんなに凄いのかよ。鬱陶しいな~、もう。しかも二、三年の他の先輩まで、「学内で殿下って呼んではいけないの」だの、「沢先輩なんて呼ぶのは10年早いわよ」だの、この学校はアノヒトのためにあるんじゃないんだよ。
だってアノヒトも普通の男じゃないか。この間たまたま見てしまった、深雪さんの手を取って空き教室に連れ込むところを。俺は今までTVでしか見たことがなかったので、あんなにイタズラっぽい笑顔を見せる人だなんて知らなかった。そしてまた深雪さんが愛しげに見上げる姿が、・・・とてもかわいかった。
二人して凄い役者だってことは、昨日の公演でよく分かった。いくら実名で登場したからと言って、舞台の中の二人はあの様子とはまるで別人だったじゃないか。もし本当に校則がなくなったら、アノヒトはずっと深雪さんのそばにいる、ただの男に成り下がるに違いない。最年少敏腕皇太子殿下も、意外とたいしたことないって。それに三年生は、9月の文化祭で部活を引退するんだよ。そうしたら・・・アノヒトはどんな顔するのかな?