4/25 (火) 15:30 ラストスパート

噂によると、小雨により一時中断したとかで、三年の運動能力測定が長引いているらしい。

「深雪行こうよ!」

「うん!!」

若菜に誘われなくても行くつもりでいた。だって最後の運動能力測定じゃない!希が走っているところって、すっごくカッコいいんだから!

・・・いけないと思いつつも、廊下を走ってしまう。グランドがよく見渡せてあまり人がいなさそうなところ・・・いいや、とりあえずグランドに出よう!

近づくにつれ歓声が大きくなるということは、今まさに何かの測定をしているということ。

・・・いた!トラックを走っているのだから、長距離走だ。髪をなびかせて・・・他の男子と競り合いながら、風のように軽やかに地面を蹴りだしてゆく。半袖短パンの体操服から引き締まった手足が覗き・・・、もちろん手首にはブレスレット。前方をじっと見据える表情にはいつもの穏やかな様子ではなく、仕事のときの厳しい様子を浮かべている。あと何周なんだろう?頑張って!・・・この応援を届けたくて、私はブレスレットを握り締めた。

カランカラン・・・残り一周の鐘が鳴り響き、周囲の歓声が一段と大きくなる。

それと同時に併走していた人・・・あの人確か陸上部だ、が、スパートをかけた。必死でついていこうとする希。長距離は得意じゃないんだよね・・・と言っていたけど、大丈夫、まだ抜き返せるよ。

「お願い、頑張って!」

気づかないうちに大きな声が出ていたみたい。周りの人が振り返って、若菜にも「ちょっとちょっと・・・」って袖口を叩かれたけど、いいの!負けてほしくないんだもん!頑張ってよ~!!!

あと半周、あと1/4、そして最後の直線。さっきまで身体一つ遅れをとっていたけど、徐々に差が詰まっていく。目の前はゴール、もうあとがないよ!

・・・二人は、ほぼ同時にゴールラインを通過したように見えたけど、ちょっとだけ相手のほうが早かったみたい。・・・一斉にため息が漏れる。

「惜しかった・・・」

「でも、相手は陸上部なんだから、十分よ」

残念だったけど、大健闘だと思う。見てるこっちまで手に汗をかいたもん。

グランドの二人は同様に前屈みになって、荒い呼吸を繰り返していた。すると相手のほうが希のほうに寄って行って、右手を差し出した。一瞬間があってから、それを握り返す。苦しそうにしながらも、イタズラっぽい笑みを覗かせて・・・。辺りには拍手が湧き起こっていた。なんだか感動した、カッコよかったよ、希!

やがて起き上がった希は、加藤さんからタオルとペットボトルの水を受け取りながら、さりげなく視線を走らせてくれた。私を見つけるなりちょっと目を細めて、口パクで「ありがとう」

・・・よかった~。私の応援、届いていたんだね。

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