先輩の側近の加藤さんから電話をもらっていたのだけど、さすがに夜のニュースで朝霧先輩がヴァイオリンコンクールで優勝したと放送されているのを見ると、不思議な感じがした。見慣れていた人が急にテレビの中の人になる・・・沢渡先輩もそんな風になっちゃうのかな?
すると今日は、わりと早い時間に電話が鳴った。
“出来れば近々挨拶に伺いたいから、ご両親のご都合を伺ってきてくれないかな?また後で電話するよ”
え~、でも、パパにはまだ付き合っている人がいることすら言えていないのに、何て言ったらいいか分かんない。
「今日じゃないとダメですか?」
“別に、僕が行くからなんてことは言わなくてもいいから、いつご在宅なのかどうかだけ、それとなく伺ってみて。大事な話だから、僕の口からきちんとお伝えしたいんだ。おそらく深雪のお父さんの会社にも影響が出てくると思うし”
・・・パパの会社に?どうして?
“え?深雪が僕と付き合っていることが世間に知れ渡ったらきっと、お父さんの会社の株価が上がるよ。・・・君も大企業の社長令嬢なんだから、そのくらいわきまえておいた方がいいよ”
そんな・・・、これは先輩と私との問題で、パパには関係ないのに・・・。
「嫌です。先輩が・・・私の先輩でなくなっちゃうなんて、嫌です」
“深雪・・・”
折角、先輩のおかげで毎日が楽しくなりかけているのに、遠くの世界に行っちゃうなんて考えられない。
“深雪、僕は君だけを見てるよ。君の前ではただの男なんだ、それはこれからも変わらない。・・・君のほうこそ、名前で呼んでほしいって言っているのにいつまでも先輩って呼ぶし、矛盾してないかい?”
先輩は私たちの距離を近づけてくれようとしていたのに、変なところで遠慮していたみたい。
“ついでに、その敬語もやめてくれない?僕は深雪のことを尊敬しているんだよ。君は、僕の心を開いてくれた最初の女性なんだから”
え~!超ウルトラスーパーエリートの先輩が、私のことを尊敬しているだなんて、何だか目眩がしてきた。
「何かの冗談では・・・」
“そんなわけはない、僕にとってはそれだけの価値がある人だよ、君は。だから、それ以上に君のことを幸せにしてあげたい。そのためにも、ご両親のご都合を伺ってきてくれないかな?”
「分かりました。でも私も先輩のことを尊敬しています。だから敬語を使わせてください・・・希さん」
“・・・ま、少し前進かな?じゃあ、1時間くらい後にまた電話するからね”
・・・ふう。先輩も頑張っているんだから、私も頑張らないと。・・・あ、希さん、だ。