職場のみんなで飲みに行った席で、
「所長は弟さんの話をほとんどされませんけど、この間いらした時の様子を見ていたら、ほほえましい兄弟だなって思いましたよ」
と言われた。ほほえましい兄弟・・・か。
仕事に関して言うと、やっぱり希が表舞台に出るようになってからは、依頼が増えた。最初は少し本意じゃないと思ったこともあったけど、これ以上の宣伝はない。純粋に俺の仕事を見てもらえるチャンスが増えたのだから、それは歓迎すべきことだと思い直した。
家に帰った時くらい忘れたいと言うことで、詳しいことまでは知らないけれど、希は今の地位に到るまで相当な苦労をしてきたようだ。一瞬見せる寂しげな瞳・・・、それを忘れたくて、がむしゃらに仕事や学校に打ち込んでいるところがあるような気がする。いつも本心を見せない。
一緒にいる時間が絶対的に不足しているから、近況とか当たり障りのない話になってしまうのはやむを得ない。ただあまり信頼されていないのかと、少々寂しくなったりもする。お互い知り合えていないのは否定できない事実で、出来てしまった深い溝はもう埋められないのかもしれない。そう思うと、王宮のことを恨みたくなったりする。
でもたった一人の弟であり、家族だから。
オヤジもオフクロも必要以上には言葉に出さないけれど、希のことをとても心配している。でもどうしていいか分からない、と、腫れ物に触るかような接し方。・・・希が心を開かないからだ。未だに、入宮させたことがよかったのかどうかと、葛藤することもある。
希はいささか頑ななところがあるから・・・。俺のことを「兄貴」と慕ってくれているけど、言葉通りではなく、それが俺の名前なんだと勘違いしているんじゃないかと思ってしまうことがある。いつも建築の話ばかり聞きたがって、自分のことはほとんど話そうとしない・・・。兄としては心が痛む。