4/1 (水) 14:30 サファイアのピアス

新しい年度の始まり。

陛下からのお呼びをいただいた僕は、緊張しながら執務室のドアの前に立っていた。

「失礼いたします。お呼びでしょうか?」

「ああ、沢渡くん。こちらに」

はい。・・・いつも穏やかな陛下が、改まった様子で僕を招き入れてくださる。するとソファーセットに座っていらした殿下が立ち上がり、陛下のデスク脇に立っていた結城の隣に並ばれる。

「今日沢渡くんに来てもらったのは、他でもない。お祝いを言うためだ」

ああ、高校入学の。

「ありがとうございます」

「いや、まだ早いよ。何のお祝いか聞かないのかい?」

え?他に何かありましたか?殿下に様子を伺おうとして視線を向けると、殿下が一つ頷かれた。

「沢渡くん」

はい。僕は再び陛下に視線を戻す。

「沢渡希、あなたを、今日付けで次期皇太子に任命します。・・・受け取ってくれるね」

そして差し出されたのは、高官しか身につけることのできない、石のついたピアス。

「本当ですか?」

「ああ。君は立派な成長を見せてくれているからそろそろいいだろう、ということで響くんと話がまとまって、閣僚からも賛同をいただいた。ただし、君は高校生という立場だから、まずは王宮内だけで仕事をしてもらうことにする。折角の高校生活を楽しむことも大切だから、週末や議会中に宮殿で仕事をすればいい。まだ時間はある。少しずつでいいから本格的な仕事をこなしてくれることを期待する」

「ありがたいお言葉です。謹んで承ります」

僕もついに高官か・・・。今までとは立場が違うのに、学校などに行っていてもいいのだろうか?

「君に足りないのは経験だ。社会に出て多くの人と触れることは君を成長させてくれるだろう。ついては、今後は次期皇太子として響くんから学ぶと共に、財政を担当してもらうから中川長官からも指導を受けてほしい」

「陛下のご期待に添えるよう、日々精進いたします」

財政は国の重要なセクションだ。嬉しいけれど責任も大きい。そして、

「響殿下、これからもどうぞよろしくお願いいたします」

大好きな殿下と仕事ができるなんて嬉しい。殿下は僕にとって憧れの人だ。

「沢渡くん、こちらこそよろしくお願いします。ほら、このピアスをつけてみて。陛下が見立ててくださったんだよ」

改めて拝見すると、プラチナ台にサファイアが揺れるデザインのピアス。・・・僕にはもったいないくらいだ。

「とても気に入りました。ありがとうございます」

そして今までつけていた左耳のピアスを外すと、殿下がつけるのを手伝ってくださった。・・・ずっしりと重みがあって、気持ちが引き締まる。早くこれが似合うようにならないと・・・。

僕の心は春爛漫。期待に胸が膨らみはちきれそうな勢いだ。

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