私はすっかり取り乱してしまっていた。
「どうしたの?・・・彼と何かあった?」
うっ・・・。この状況下で、気づかないほうがおかしいよね。
「・・・先輩のこと、もっと好きになりたい」
すると先輩は、私の肩を抱いて車までエスコートし、乗り込んだ途端に私を後部座席に押し倒した。深い深いキス・・・。その甘い衝撃に、沢渡くんの顔は薄らいでいくような気がした。・・・・このまま彼のことを忘れてしまいたい。
演劇部の勉強会は、部長のお宅で行われた・・・ホントに広い。しかも、お茶とおかし付き。何部屋も提供してくださったので、私は清水先輩の元へ行って、教えてもらった。
園田先輩が言っていたけど、兼古先輩とは同じクラスなのだそう。その兼古先輩は次期生徒会長の最有力候補と言われているくらい生徒の間では人気があって、情報通だと評判。当然園田先輩のこともいろいろと知っているに違いない。
しかし兼古先輩は勉強にはあまり興味がないらしく、隅っこでコーヒーばかり飲んでいる。・・・だからと言って、いろいろ聞いてみるというのも、なんか変だし。
園田先輩のことはだんだん好きになってきたと思う。とても男らしいところに惹かれているみたいで、日に日に、先輩のことを考える時間が増えてきているような気がする。先輩は私のことを理解しようと大きく腕を広げていてくれるから、飛び込んでいくだけでいい。
そうなると、巷のカップルのことも気になる。どんな風に付き合っているのかな?・・・兼古先輩と清水先輩はいつも一緒で、またその一緒にいることがごく自然に見える。特に付き合っていることをアピールするような素振りは見せないけど・・・兼古先輩のほうが清水先輩にくっついているような気がする。二人だけのときはどう過ごしているのかな?二人とも一つ年上とは思えないくらい落ち着いた印象があるので、その関係も当然・・・。
「どうした?」
急にその兼古先輩から聞かれたので、ビックリした。・・・じっと見つめてしまっていたかも。
「・・・先輩は、勉強しなくてもいいんですか?」
「余計なお世話」
そしてそのまままた車の雑誌に目を戻してしまう。これもまた明らかに、清水先輩のためにこの部屋にいる、という印象。
沢渡くんは何してる?・・・ううん、しばらくは彼のことは考えないことに決めたんだ。