8/1 (土) 23:00 充実感

人前で演じるというのはこんな気分なのか・・・。舞台に立った瞬間は、ライトが眩し過ぎる、と思ったけれど、そうなるとますます異空間にいるのだと感じられた。観客がそこにいて笑い声も聞こえるのに、姿はあまり見えない。加えて、スポットライトを浴びると、まるで自分ひとりだけの世界が出来てしまったかのような錯覚に陥る。

よって僕は、今までにはないほど、役の世界に没頭できた。これまでも頑張っていたとは思うけど、本番ではその比ではないくらい弾けた演技を見せることが出来たので、終わった後はとにかく気持ちよくてたまらなかった。

そして結果発表。

「第2位、クリウス学園高等学校」

優勝こそ逃したけれど、地区予選のときに敗れた学校に勝てたというのは嬉しかったし、みんなの顔にはいい芝居ができたという充実感が溢れていたので、十分だと思った。

「みんな、ありがとう。僕があれこれ言わなくても、みんなの心にはきっと同じ感情が芽生えていると思います。それでは・・・成功を祝して乾杯!」

乾杯!とみんなが一斉にジュースの入ったグラスを掲げると、一瞬間があったあとで、大きな拍手が響き渡った。

・・・それで思い出したけれど、殿下からのお祝いのメールをいただいたので、折り返し電話でお礼の言葉を申し上げた。「君に演劇を勧めてよかった」とおっしゃっていたけれど、本当にそう思う。殿下からチャンスをいただかなければ、クリウスに入学して演劇部に所属することはなかっただろう。すると、この快感をずっと味わえないままだったに違いない。・・・それではかなり人生を損していることになるだろう、なんてことまで考えてしまう。

「どうした?今回の主役がやけに静かじゃないか」

そこへ兼古先輩がやってきた。・・・その様子はもしかして、アルコールを調達しているってワケですか?

「僕の力なんて些細なものですけど・・・感動しました。こんな気分を味わったのは初めてです。ありがとうございました」

「随分しおらしいことを言ってくれるじゃないか。今後の役に関しては、美智があれこれ楽しそうに考えているみたいだから、いろんな役を見せてくれよな・・・女装とか」

・・・それは、遠慮しておきたいところですが。

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