「沢渡、君のおかげだ、ありがとう」
部長が改まった様子で握手を求めてきたのは、宴もたけなわになった頃だった。
「いえ、僕のほうこそお礼を言わせてください。大きな舞台に立たせていただき、ありがとうございました。このことは決して忘れないと思います」
僕が手を握り返すと、部長は苦い顔になった。
「結局君に嫉妬していただけなんだと思う。部長というのは部全体の利益を考えなければならないのに、つまらないことに固執してしまって、本当にすまなかった」
いえ・・・いいんです。僕はまだ1年生なんですから。
そして宮殿に帰ると、陛下までも会場にいらしていたとのことで、お待ちかねのご様子だった。
「沢渡くん驚いたよ、君にそんな才能があったなんて。素晴らしかった」
陛下がそうおっしゃるくらいなのだから、僕も少しは自信を持っていいのかもしれない。・・・待って、陛下がいらしていたということは有紗さんも。
「沢渡さん、私からも言わせてください。本当に素晴らしかったです。今後のご活躍を楽しみにしております」
ありがとうございます。最近なかなか二人きりの時間を過ごせないけど、表立った場所で言っていただけるなんて、それはそれで嬉しい。
「沢渡、カッコよかったぞ。来年は優勝だな」
なんて、熱烈な抱擁とキスをしてきたのは結城。・・・やりすぎだよ、しかも気が早すぎる。
「ううん、決して大げさなことはないよ。来年はぜひとも優勝を狙ってほしいけど・・・その前に、文化祭にも出るんだよね」
・・・それもまた、同じくらい気が早いですよ。
「今度は卒業生として堂々と観に行くよ。あ~、楽しみだね」
なんて・・・待てよ。あの会場には我が国の高官が揃っていたことになる・・・それはそれで恐ろしい。
そして夜が明け、午後は自宅で休養することになった。
「希、本当にカッコよかったわ。まさか、学校でもあんな風にしているわけじゃないでしょうね」
もちろん母も観に来てくれていた。
「そんなわけないよ。あれは役柄だから」
「信じられないわね。あまりにも自然すぎて、役だってことを忘れてしまいそうだったわ」
その言葉は半分だけ受け取っておくことにして・・・、でも嬉しかった。みんなが笑顔だったというのが、とても印象的だった。