10/3 (土) 15:00 波

先輩は怖いくらいに微笑んでいた。私は先輩の家に連れて行かれ一緒にDVDを観ることになったのだけど、集中できるわけがない。

「どうしたの?・・・面白くない?」

「いえ・・・そういうわけでは・・・」

「だったら、こっちに来てもっと楽しんで」

・・・ずっと観たかった映画なので楽しみだったんだけど、とても笑える感じではない。

「最近、笑わなくなったね」

・・・そうさせているのは先輩です。・・・でもそんなこと言えません。

「どうして?」

・・・言うべき?

「先輩の気持ちが重いんです。・・・私じゃ先輩の気持ちに応えられません」

「どうしてそういうこと言うのかな?僕はただ、まゆと一緒にいたいだけなんだよ」

先輩の腕が伸びてきて、私を抱きとめる。

「まゆは・・・僕のものだけよね・・・」

私はものではありません・・・。でも、先輩に抱きしめられていると、このまま時が止まればいいのに・・・と思ってしまう。好きだけじゃダメなの?私は多くを求めすぎているのかな?

「悲しい顔をしないで。・・・僕が慰めてあげる」

優しい優しいキスをしながら、先輩がゆっくりと覆いかぶさってくる。

そう、私のことを愛してくれるのは先輩しかいない。みんな私のことを心配してくれるけど、それは所詮、友達だとか先輩という立場からでしかない。・・・私は寂しいのよ。

好きな人から愛してもらえない、こんな不幸なことって他にある?他のどんなものもそれを埋めてはくれない。でもほんの一瞬でもそれを忘れさせてくれるのなら・・・私はその波に溺れていたい。

「愛してるよ」

愛してもらいたい。・・・一度でいいから、その言葉を彼の口から聞いてみたい。

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