僕は、一人であれこれ悩む前に出来るだけ多くの人の意見を聞いておくタイプである。
今日はちょうどタイミングよく、仕事の話をした後で、陛下が先日のテニス大会についての話を振ってくださった。
「有紗は、沢渡くんといると楽しそうだね」
・・・陛下は本当に気づいていらっしゃらないようで、怖いくらいだ。
「有紗さんのご結婚について、お考えになったりすることがありますか?」
それとなく・・・、それとなく・・・。
「まだ早いと思うが、たくさん話をいただけるうちが花かな、という気もするね。だが、それを決めるのは有紗自身だ。今度ばかりはあの子のしたいようにさせてあげたいと思う」
陛下は有紗さんのことを案じていらっしゃる。いい親ではない、と日頃からおっしゃっているので、今度ばかりは、との言葉になったのだろう。
「有紗さんはどのようにおっしゃっているのですか?」
「やはりまだ、結婚については考えていないみたいだね。何しろ、私に仕事以外の話はしないのだよ、困ったことにね。私のことは父親だとは思っていないようだ」
そんなことはないはずですが・・・。
「例えば、沢渡くんと有紗さんが付き合ったとしたら、どうでしょうか?」
「それはいけないよ。有紗のほうが年上過ぎるし、沢渡くんにはもったいない。・・・彼の今後が楽しみだね」
・・・陛下はお気づきにならないのですか?
「沢渡くんはいろいろなことで思い悩んでいます。このままではつぶれてしまいそうですよ」
「響くん、それは・・・」
「端的に申し上げて、沢渡くんは愛情不足です。確かに彼は仕事ができるかもしれませんが、それは精神面での充実があってこそです。現に先日の予算案の作成のときも身をすり減らしすぎたようですから、仕事をたくさん与えるのはまだ早いのではないかと思われます」
「だが」
陛下は厳しい顔立ちになられた。
「エリート人材を育成するためのプログラムだったんだよ、そのためにどれだけ尽力したことか・・・」
「それは分かりますが、もし今後同じようなプログラムを組むのでしたら、相当変更が必要だと思います。今となっては持ち直してくれていますが、家族の仲を引き裂いてまですることでしょうか?・・・それは沢渡くんの家族もですが、陛下のご家族も、です」
「有紗が・・・」
「大人の利益のために子どもが犠牲になるのは、これ以上見たくありません」
陛下は世界情勢を予測することには長けていらっしゃるが、身の回りのことにはあまりお気づきにならない。・・・いい父親ではない。