仕事柄かなり多くの国を訪れているが、そこはやはり、彼女のためにもまだ行ったことがない国を選んでみた。・・・同じように感じたいから。
そしてやってきたのはとあるリゾート地。普段あまりにも多くの人に会っているから、そうはならない真逆の場所にしようかとも思ったのだけど、僕の経験上、そういうところは3日もすれば飽きてしまう。やはり僕は人と会うのが好きみたいだ。あとは、あまり暑いのは得意ではないので、過ごしやすいところで。
ホテルのベランダに出ると、爽やかな風が吹いてきた。見えるのは山と湖の周りに広がる赤い屋根の街並み。そこでは市場が開かれているらしく、窓の下には多くの人が行き交っている。
「昨夜はよく眠れた?」
舞が、ナイトガウンのまま隣にやってきた。
「おかげさまで、ぐっすり」
そして僕は彼女を抱き寄せ、おはようのキスをする。・・・ホーンスタッドだったら、誰かに見られていないか気にしなければならないが、ここではその必要もない。しかも朝からのんびりした気分で過ごせるなんて、幸せなことだ。・・・いつもなら、竹内がその日のスケジュールを怒涛のように話して、その間に着替えるという慌しさの中にいるから。
「あ、貴くん。朝ごはん作るね」
嫌だ、離さない。
「今日くらいゆっくりしようよ。竹内に頼めばいいから」
「ダメよ。自分たちのことは、できるだけ自分たちでしないと。・・・ねえ、ほら」
うん、そうだね。…しっかり者だな。
「折角だから、市場に行こうよ。急いで!お腹が空いて、倒れそうなんだ」
「またそんなこと言って。殿下のわがままは、ここでは通用しないわよ。着替えるまで、待っててくれるわよね」
・・・そんなににこやかに言わないでよ。結局舞には敵わない。
でも身支度は意外と早く終わり、僕たちは焼きたてのパンを買いに行くことになった。その時もまた、仕官の分はいいの?とかあれこれ心配してくれて、おまけにしっかり値切ってくれたりして、驚いた。
「舞がいれば、路頭に迷うことはないね。頼りにしているから」
「私は、貴くんから愛されないと路頭に迷ってしまうんだから、側にいるわ」
・・・そういう意味では。