さすがに殿下は仕事が早かった。担任と部長、そして兼古先輩を呼んでくださったのだ。
僕は劇の役さながら、加藤の腕につかまって宮殿の一室へと向かう。宮殿には基本的に一般人は家族ですらもなかなか入れないのに、殿下は特別に許可を取ってくださり、また担任にもすでに話をしてくださったようだ。
「そちらに担任の先生、そしてこちらに清水さんと兼古さんです」
加藤が僕の腕をさりげなく相手の方向に向けながら状況を耳元で説明し、ソファーに座らせてくれる。
「沢渡、昨日から驚くことばかりだよ。君が王宮の人だと聞き、目が見えなくなったと聞き、先ほどは殿下にもお会いした。・・・おっと、呼び捨てになんかしちゃいけないよな、そちらの方が睨んで・・・あれ、加藤先生ですよね」
担任が加藤に気づいたようだ。
「沢渡さんの側近をさせていただいております、加藤です。もちろんこちらが本業です」
「学校ではわざわざ眼鏡をかけているんですか?」
担任はますます喜んでいる。
「ところで沢渡、目のほうは大丈夫なのか?」
兼古先輩が、痺れを切らしたようにこわばった声で聞く。
「何とも言えません。何せ原因がよく分からないのです。これが一時的なものなのか、いつまでも続くのか、それすらも分かりません。でもその他の部分はいたって健康なので、コンクールには是非出させてください」
「それはもちろん願ってもないことだけど、部活には来れるのか?」
殿下には自信がおありになるらしく、目が見えないのは一時的なものだ・・・いや、一時的なものにする、ということで、今後のことや王宮の立場を考えると人前に出ることは避けたほうがいいとおっしゃっている。ただ僕としては、部活のメンバーは気心が知れているから話しても構わない、というか逆に嘘はつきたくないと思う。
「じゃあ、私の家で練習しない?それなら大丈夫でしょ、いつから出られる?」
「すみません、ご迷惑をおかけして・・・」
日にちはまた改めてということにしておき部活のことは一段落したが、中間テストのほうは大変だ。目が見えないので先生が読んだ問題について口頭で答えなければならないし、再テストということで各教科10点が無条件で減点されるとのことだった・・・ハードルが高いな。でもこれでやることが増えたので、嬉しい。