5/29 (日) 2:30 彼女との距離

電話で話すことで、彼女との距離が縮まった気がする。最初は遠慮していた彼女も徐々に自分から話してくれるようになったので、多くのことを知った。彼女は控えめと言うよりも、これまではすべてのことに対して諦めの気持ちで日々を過ごしていたようだ・・・その気持ち分かる。まるで遠い日の自分を見ているかのようで、他人事とは思えない。

僕は電話で話している間、彼女の顔を思い浮かべていた。部活の時の彼女はいつも真剣だ。でも今は自然に笑っている。実際にはまだ輝くような笑顔は見たことがないけれど、想像上の彼女は、僕だけを見てにっこりと微笑んでくれていた・・・かわいい。早くその笑顔を見てみたい。

“先輩自身も、誰かから励ましてもらっているんですか?”

彼女が不意に言った。

「うん。自棄を起こして怒られたこともあるけれど、僕の身近にいる大切な人はみんな、大丈夫だよって僕を抱きしめてくれる。その人たちにこれ以上心配や迷惑はかけられないし、これは僕の人生だから自分でどうにかするしかない・・・、僕は今できることを精一杯やりたいと思っている」

自然と言葉が出てきていた。いつもなら親しい人以外にはこんなことを言ったりはしないだろうに・・・。彼女は、“私も励ましてあげなければならないのに怖じ気づいてしまってすみませんでした”と謝ってくれたのだけど、それはさほど重要ではなかった。それよりも重要だったのは、お互いに楽しい時を過ごせたということ・・・。

「希、今上の空だったっでしょ」

急に体を揺さぶられてビクッと顔を向け直す。・・・目が見えないことの利点は、外からの情報量が少ない分自分の世界に入りやすくなることかな。

「すみません、眠くなってきてしまって・・・」

「もう、都合がいいんだから・・・」

有紗さんのイタズラな手が胸から首筋へと這い上がる。・・・目が見えないことの不利点は、相手の行動が予測しにくい分、少しでも気を抜くと相手のペースに流され放題になってしまうこと。

「やめてください。今はそんな気分ではないんです」

手探りでそのイタズラな手を捕まえると、彼女から殺気が感じられた。

「どうしてよ。こんなに心配して面倒を見てあげているのに」

「それにはとても感謝しています。でも今は・・・すみません」

お休みのキスだけで勘弁してください。・・・左手で彼女の首筋を探し、右手で頬を捕まえながら、僕はキスをした。しかし、僕がそちらに気をとられている間に背中に両手を回されてしまい、逃れることができなくなってしまった・・・どうする?

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