少しでも僕の負担を減らしてくれようとして、今日の部活は僕との絡みがある部員だけが部長のお宅に集まることになった。だから今日はカムフラージュの包帯はせず、サングラスだけを持って行くことにした。
「これで本当に目が見えていないなんて、信じられないな」
兼古先輩はどうやら僕の目をしげしげと眺めている様子。
「そのことなんですけど、来週には手術を受けることになりそうなんです。そうするとまたその前後は部活に来られなくなるんですよ。どのくらいになるかは経過を見ないと分からないんですけど、本当にすみません」
何で沢渡が謝るんだよ、と兼古先輩はじめ、みんなが言ってくれたのだけど、本当に僕は周りの人に迷惑ばかりかけている。これでいずれ皇太子になれるのか、不安だ。
「じゃあ、時間もないことだし、早速練習しましょう。沢渡くんと朝霧くん、そして深雪ちゃん、スタンバイよろしくね」
川端さんは、僕がしばらく部活に来ていなかった間に、深雪ちゃん、と呼ばれるようになっていた。・・・僕だけが取り残されているような気がして、どことなく引っかかる。
「僕にも妹がいるわけじゃないから説得力に欠けるかもしれないけれど、もっと遠慮しないで接してくれていいと思うよ。何だか今のままでは、生きようという思いを呼び起こさせるだけの動機付けとしては弱い気がするんだよね」
休憩時間、僕は川端さんを呼んで言った。
「そうですか・・・すみません」
・・・ってそれだけ?特に、今の僕は見えないからもっと言葉で返してほしいんだけどな。
「あ、あの、すみません。何て言うか、凄く違和感があって・・・」
「?・・・あ、ああ、包帯をしていないってことで?」
はい、と小さな返事が聞こえてきた。それならやはり、ということでサングラスをかけることにする。今日の演技はずっとどうしていたのだろうか?それは川端さんに限らず、みんな僕に目線を合わせてくれていたのだろうか?部長からは特にそのことで指示が出たわけではなかったが・・・。
「先輩のこと、見ていられないんです。あまりにも痛々しすぎて、悲しくなってしまうんです」
・・・正直だね。ああ、どうやら本当に泣いてしまったみたいだ。僕のことをとても心配してくれているんだね。・・・でも、役では僕を励ましてくれないと困るんだけど。
「大丈夫だって。もうすぐまた見えるようになるから心配してくれなくていい。それよりも、芝居のほうを詰めていかないと大変なことになるよ。ねえ、もっと話をしよう。・・・そうだ、僕を前にすると話しにくいのなら、電話はどう?番号を教えて」
自分でも何故にこんな言葉がスラスラと出てくるのか分からなかったけれど、彼女と話す必要があるのは事実だ。・・・だから、これでいいんだ。