そして沢渡くんは手術のために渡航した。
昨夜一緒に過ごしてみたらよく分かった、目が見えないことは大したことではないと。それは、武術ができない僕を側近たちが守ってくれるのと同じことだ。沢渡くんの側近たちは、沢渡くんの目になる。もちろん手術がうまくいってくれることを祈っているが、目が見えても見えなくても関係ない、僕は他の誰でもない沢渡くんを必要としている。
「大丈夫、きっとうまくいくわ」
風呂上がりにビールを飲んでいると、舞がおつまみを持ってきてくれた。
「もちろんだよ。・・・率直に言ってほしい、僕は深入りしすぎているのかな?」
お妃教育中の舞を、半ば放ったらかしにしていることを咎められても、言い訳はできない。
「沢渡さんは貴くんの弟みたいなものだし、それにまだ若いから心配になるのは分かるわ。でも貴くんがそんな様子だと、私は沢渡さんに加えて貴くんの心配もしないといけなくなるのよ」
そうだよね、ごめん。僕は君の味方でいてあげなければならないのに。
「でも私も貴くんと一緒で、ただ心配することしかできなかった。・・・私には貴くんのどこにまで踏み込んだらいいのか分からないときがある。ほら、貴くんは相談に乗ってもらいたいときは自分から話すでしょ、でも今回は何も言ってくれないから、私のほうも聞かないほうがいいんだと思った。そしてそうこうしているうちに、時間だけが過ぎてた」
ごめん・・・、心配をかけたね。
「いつもならもっと広い視野を持って臨機応変に対応できるはずなんだけど、こればっかりはどうも・・・。だから様子がおかしかったら指摘してくれる?僕は個人的な感情だけで行動してはいけない立場にいるのだから、どんなときでも舞の言葉には耳を傾けられるはずだよね・・・いや、そうしなければならない」
「私に、少しでも貴くんの気をそらしてあげることができるのかな?」
「それは舞にしかできないことだよ・・・」
沢渡くんのことがとても心配だ。何もなくとも、加藤には定期的に報告をさせたいくらいだ。でも僕には仕事がある、それはこんな精神状態で臨んでもうまくいくような甘い仕事ではない。
「ねえ、貴くんの歌を聴かせてよ。歌ったらすっきりするかもしれないわ」
それはいいかもしれない。折角部屋にカラオケセットを導入したのに、全然使っていなかったから。