「な~んでお前は、骨折してから機嫌がいいんだよ!」
放課後兼古先輩にとっつかまってしまい、そのままカフェへと移動することになった。
「まず一つには、別れたからです」
「有紗さんとか!」
「声が大きいですよ。・・・その代償がこれです」
先日ついに、僕は別れ話を切り出した。これ以上付き合っていても、何も変わらないと思ったからだ。そしたら彼女は逆上して、近くにあった花瓶を投げつけてきた。よける猶予がなかったのでとりあえず左腕を盾にして構えたところ、鋭い痛みが駆け抜け、腕を動かせなくなったというわけだ。
「でも腕を折ってくれたおかげで、僕的には吹っ切れました。彼女の心の傷が心配でしたが、僕も傷を負うことになったわけですから、これでおあいこですよね」
実は、この外傷自体よりも、三角巾で腕を吊るという見栄えが災いして、公式行事への出席が見送られていることのほうが痛い。でも陛下は、「次期皇太子に怪我を負わせるとは何事だ!」とおっしゃり、別れたことに対してのお咎めは受けなかった。
「もう一つには、新しい恋人ができたからです」
先輩の目が大きく見開かれ、・・・でも次の瞬間、複雑そうな表情に変わった。
「深雪ちゃんか」
「はい。ですが、当面は内密にお願いします。このことが知られたら、彼女が何をされるか分かりません。しばらくは様子を見ることにします」
「そうだよな。学年も違うし、いつでも駆けつけるってわけにはいかないよな」
だから今は、付き合うと言っても、電話することとか、帰りが遅くなったときに送っていってあげることくらいしかできない。・・・週末にはデートできるかな?でも全国大会は近いし、ましてや議会は間もなく始まるしで、恋愛にかまけているわけにはいかない。
「にしても、そうか、やっぱり深雪ちゃんか。・・・いつから好きになったんだ?」
「いつからなのかはっきりとは分かりませんが、目が見えなくなったとき、瞼の裏に浮かんできたのが彼女の顔だったことで自覚しました。でも課題は山積みですよ。僕の身の上については何も話していませんし、心配事はいろいろありますし」
「そうだよな、ま、せいぜい、ニヤケ過ぎて自分からバラしてしまわないように気をつけるんだな」
そんなことは起こり得ません!・・・けど、最近毎日が楽しいのは事実。気をつけないと。