6/27 (月) 17:00 まなざし

「うまくいったね」

二人きりの音楽室。私のピアノ演奏は何とか認められたみたいで、連弾版の楽譜を見ながら一緒に合わせることになった。

「といっても素人の僕の言葉にはあまり説得力がないし、目隠しをしたまま弾けるかどうか、僕のほうが危機的だけどね」

そんな・・・。先輩は地区予選のときも見事に弾きこなしていたから、きっと大丈夫ですよ。ふと見上げると先輩のまなざしとぶつかってしまい、慌てて目をそらした。

「まだ僕のことを見るのは苦手?・・・僕も嫌われたものだよね」

嫌いだなんてとんでもない!

「違いますよ。・・・先輩に見つめられるとオーディションでのことを思い出してしまうんです。あのとき、演劇の経験なんて全然なかった私なのに、先輩に見つめられたらその世界に一気に入れてしまったんですよ。先輩の、傷ついた、悲しそうな目を見てしまったら、私もとても辛くなってしまって・・・」

気づいたら泣いてた。そんなはずはないのに、私が先輩のことを傷つけてしまったみたいで悲しくなった。

「何て言うか、先輩って眼力が凄いですから、まともに見られないんですよ」

「じゃあ、目を閉じててもいいよ」

え?・・・目を閉じるんですか?・・・すると、唇の端に柔らかな感触が伝わってきて、思わず目を開けた。・・・キス!

「今の僕は、傷ついていないし、悲しくもない・・・嬉しいんだよ」

確かに、先輩の目は優しく微笑んでいた。・・・先輩って笑うんだ。クラスの子は、沢渡先輩って笑わないのかな?って本気で心配してた。その笑顔はとても素敵で、温かさに溢れていた・・・その目が私だけを見ている。

「君のことが好きなんだ。付き合ってくれないかな、深雪」

え、え~~~~~~~~~~~!

頭の中が真っ白になった。先輩が私のことを好きだなんて・・・そんなこと信じられない。しかも、深雪って名前を呼び捨てにして。

「最初は君の演技に惹かれているのだと思っていた。オーディションのとき思わず腕をつかんでしまったのも、君の演技力ゆえだと思っていた。でも電話で話すうちに君のことが少しずつ分かってきて、ますます興味を持った。だから、付き合ってくれないかな?」

「本当に、私とですか?」

「他の誰でもない、君と」

ええ?・・・あ、あの、・・・あ、これって返事を待ってるってことですよね。・・・先輩のまなざしはいつの間にか強くなり、断れない雰囲気を作っていた。

「は、はい。私なんかでよければ」

すると、よかった~、と無邪気な笑顔に変わって、私にもう一度キスをしてきた。信じられない。

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