深雪を送り届けて宮殿に帰ってきたのだけど、落ち着かない。見事に醜態をさらしまくり、情けないったらありゃしない。折角の初デートで味わったのは、苦い経験ばかり・・・。
シャワーを浴びても気持ちは収まらず、やむなく結城の部屋へと出向く。そして僕は、パソコンに向かっていた結城の背後から抱きつく。
「どうしよう、今度はどんな顔をして会えばいいんだよ」
とにかく恥ずかしすぎる。何だか以前とは立場が逆転してしまったようじゃないか。
「何なんだ、一体」
「年下の、しかも女の子に、何もかも包み隠さず話してしまった・・・あり得ない」
なのに結城は、よかったじゃないか、と言った。・・・は?そして一瞬気を緩めた隙に、パソコンに向かっていた結城が僕の腕をほどいて立ち上がり、逆にきつく抱きしめてきた。・・・今度はこっちのほうが、何?だよ。
「そんなに動揺するな。祝福してるんだぞ」
「いいや、だから、全然めでたくないんだって!っていうか、苦しいし!」
「・・・ったく、まだまだ子どもだな、お前も。・・・しょうがない」
・・・って!結城は僕の髪をかき上げると、頭を傾け、首筋に舌を這わせてきた。・・・うわ、それはやめて!・・・瞬く間に何も考えられなくなり、結城に身を委ねるしかなくなる。
・・・僕は全然成長していない。昔から何かあると結城の部屋に来て、りんごジュースをごちそうになっていた。それでも久し振りだったから今回はさすがに出てこないんじゃないかと思っていたのに、新鮮なものが冷蔵庫に入っていた・・・。
「いや、俺としても常々悪いなと思っていたんだ。お前の希望通り学校へ行かせることが出来たものの、あれはダメだ、これはダメだと制約ばかり与えてしまって。もともとお前はなかなか心を開けない傾向があったのに、それじゃあ学校でも孤高の人になってしまって当然だよな」
ううん、結城は別に悪くないよ。
「でもお前自身、それには気づいていなかったのに、彼女に逢ってからはその反動が出てきてしまっている。最近のお前は俺でさえも読めないときがあるから、本当に響に同行させていいものか迷っているところがある」
ギクッ。全国大会で優勝できたから、これで心置きなく仕事に打ち込めると思っていたのに、行かせてもらえないようなことになったら大変だ。
「僕は大丈夫だよ。今日のことも少し戸惑っただけで・・・」
「逃げるな、沢渡」
結城が両肩に手を置き、目を見据える。
「素性を隠せとは言ったが、感情を隠せとは言っていない。・・・俺にはこうして何でもぶつけて来るじゃないか、だから恥ずかしがらなくていい。隠そうとするから余計におかしくなるんだ」
・・・ということは何?怒ってるわけじゃないの?
「最初に、よかったじゃないか、と言っただろ?お前が学校でも心を開ける相手を見つけられたことは喜ばしい。ただ、お前は男なんだってことを忘れるな。彼女のことを大切にするんだぞ」
結城・・・。僕はたまらず結城に抱きついた。結城はいつも僕の悩みを解消してくれて、なおかつよき理解者でいてくれる。そうか、僕にとっては深雪も、結城と同じように信頼できる相手になったということだ。
「いいけど、一週間会えないってことは話したのか?」
あ・・・。僕は火曜から殿下のお供として外遊に出かける・・・そんなことは二の次になってしまって言えなかった。
「今夜は遅いから明日話すよ。彼女にお土産を買ってきてあげないとね・・・」
「俺には?」
う~ん、世界のあらゆるところに出かけている結城に、今更お土産というのも。
「眠くなってきたから寝ていい?エネルギーを蓄えておかなきゃいけないから、ゆっくり寝かせて」
そして一人には無駄に広い結城のベッドにそそくさと潜り込む。・・・懐かしい匂い。瞬く間に眠りに落ちていく。