8/2 (火) 23:00 ツボの違い

出発が明日に迫り慌ただしいが、電話はかけておきたい。・・・事情は昨日話しておいた。でも彼女には実感が湧かないのか、これという反応は返ってこなかった。それもそうだろう、電話やメールは世界のどこにいても通じるのだから。

「ただ、時差があるし、仕事も忙しくなるから、いつも通りには電話できないかもしれない。そのときはメールを送るよ」

“あの・・・、あんまり無理しないでくださいね”

え?・・・僕としては、殿下とご一緒させていただけることはとても楽しみなのだけど?・・・どうも彼女には、僕が携わっている仕事というものが理解できていないらしい。普通の人なら、「凄いね~」と言ってくれるのに、彼女だけは反応が薄い。そういうところはミーハーじゃないみたい。

「違うでしょ、今は無理をしてでも、殿下から多くのことを学ばなければならない時なんだよ。殿下は一日が24時間じゃ足りないくらいに仕事をされているんだ、だから殿下より若い僕としてはもっと頑張らないと・・・これでも武術の稽古はいつもしているから、体力には自信があるんだよ」

“え~、そうなんですか!人は見かけによりませんね・・・”

「見かけによらないのは深雪も同じじゃないか。普段はおとなしいのに、名女優だし」

“それは役に入っているからで、本当の私じゃないですよ。ただ、別人になりたいっていう願望はあるかも”

例えばどんな?

“部長には憧れています。知的だし、大人っぽいし、親切だし・・・”

確かに、部長は素敵な人だ。

「でも、知的さとか大人っぽさとか親切さは、これから身につけていけばいいんじゃないのか?何も別人になることないんだよ、自分を少しずつ変えていくんだ。身近に目標とする人がいるなら尚更、いいところは見習って自分を磨いていく・・・僕はそうしているよ」

“先輩が尊敬する人って誰ですか?”

「学校ではやっぱり兼古先輩だね。演劇の面とか、生徒会長としての仕事面とか見習いたいよ。そして宮殿では結城と殿下。すべての面において素晴らしい人たちだよ。深雪には近々紹介するよ」

“もしかして、地区予選の時殿下が声をかけてくださったのは・・・”

「僕がお世話になっている面々に、直接会って話をされたいとのことで。お世辞抜きで、深雪のことを褒めていらしたよ」

キャー、殿下が、と深雪はミーハーな女の子にすっかり逆戻りした。・・・だからみんな、ホントに殿下に弱すぎ。そういう存在に僕もなれるかな?

「じゃあ、そういうわけだから、帰ってきたらまたデートしようね。お土産を買ってくるから」

“いえ・・・、そんなに気を遣わないでください。忙しいんですよね”

・・・だから、それは深雪の悪い癖。

「そういうところは遠慮しなくていいよ。僕が買ってきたい、ただそれだけだから」

“分かりました。じゃあ、待ってます”

よし。これで安心して殿下のお供が出来る。

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