朝霧も、沢渡も注目を浴びている。それもあって、俺も動き出さないわけにはいかなくなった。以前もらった名刺を手に電話をかけると、すぐに会ってくれることになった。
「正直に言ってください。俺は俳優として成功しますか?」
・・・しかし、俺は真面目に聞いたつもりだったのに、相手の女性はガッカリしたような表情を見せた。
「やっと決心してくれたと思ったのに、まだだったみたいね」
え?・・・それはどういう?
「私たちは精一杯あなたの才能を伸ばして、あらゆる媒体に売り込む。でもそれより大事なのは、成功したいという気持ちを本人が強く持つことよ。評価は後からついてくるものでしょ、なのにまずそれを気にするようなら、こちらとしてはまだお願いする段階じゃないってことよね」
・・・思わぬ返答に愕然とした。妙なところで俺は天狗になっていたのだ。スカウトされたのだから、俺のほうはただ顔を出せばいいと思っていた。が、そんなに芸能界は甘くない、というわけか。
「でも、俺の才能を伸ばしてくれる、と言うのだから、才能はあるってことですよね」
「ええ、才能は十分にあると思うわ。でも成功するかどうかの多くは、あなたにかかっているというわけ」
そういうことか。自信がないのにオーディションを受けたって受かるはずがないだろう、というわけだ。でも正直、役者に全てを懸けるだけの勇気はまだない。周りにしたってそうだ、高卒で就職する人などいないし、何よりもあの親父が納得するはずがない。
「しばらくは周囲に内緒にしたいんですけど、いいですか?演技についてきちんと学んで、ある程度の役をもらえるようになったら話しますけど、それまではまだ未知の世界でもありますし、自分に合うかも分からないので、踏み切れないんですよ。ただ、やるからには真剣にやります。そして大学に行く4年の間に芽が出なかったらきっぱりと諦めます」
これまでのもやもやが嘘のように、スラスラと言葉が出てきていた。そうだ、これが俺も、そして周囲も納得できる最善の策だ。やるだけのことはやる。もしダメなら、大学生に戻ればいい。ただそれだけのことだ。
「分かりました。その気持ちに応えられるよう、精一杯後押しさせていただきます。よろしくお願いします」
よかった・・・けど、美智にはいつ話そうかな?激怒されそうな気がする・・・。