宮殿に戻ってきて向かったのは、結城の部屋だった。・・・この時間なら、沢渡くんとの夕食会も終わっているに違いない。
「お酒を飲んでいなかったら、ドライブに連れて行ってほしいんだけど」
「ああ、いいぞ。着替えるからちょっと待ってろ。・・・お前は着替えなくていいのか?」
別に車から降りないから、皇太子仕様でもいいだろう。部屋に帰るのが面倒だ。・・・昨日、今日とやけに人からじろじろ見られたので、正直参ってしまった。僕としたことが、調子が狂ってしまって落ち着かない。
「今頃何言ってんだ、お前は。皇太子になって何年経ったと思ってる。人目もはばからずに外出していたくせに、どうしたんだ?」
ステアリングを握る結城は笑いが止まらない様子で、しきりに僕のほうを見てくる。・・・それは僕としても同じだよ、急にどうしたのだろう?
「平気なのはフリだけで、実は嫉妬しているのかな?」
・・・沢渡くんに。
彼が財務長官に就任して1ヶ月になるけど、未だに、沢渡くんの話題がメディアで取り上げられない日はない。今までは僕のほうが注目されていたわけで、でもそれを受け流すだけの余裕があったのに、いつの間にか敏感に反応するようになってしまったのだろうか。
「別にお前が嫉妬することないんじゃないか?だって今でも、お前のほうが人気があるし」
そうかな?・・・いや、勝ったとか負けたとか思うこと自体おかしい。
「何だかんだ言って、お前もマリッジブルーなんじゃないのか?・・・舞さんのことが結構堪えているみたいじゃないか。そりゃ、人生の一大事だからな、ちょっと感覚がおかしくなっても不思議じゃないだろう」
「結婚したことがないくせに、よくそんなことが言えるね」
と言うと、結城は爆笑した。
「そんな軽口を叩けるようなら、まだ大丈夫だって。って言うか、大体お前って、女の子のことをどう思ってるんだ?意識しなさ過ぎなんじゃないか?」
意識しないわけはない。僕だって綺麗な女性がいると見とれてしまうし、舞が他の男と話していたりすると嫉妬したくもなる。でも、舞以外の女性は恋愛対象にならないし、逆に舞が僕の元から離れるなんてことも考えたことがない。
「結婚してまた一緒に住むようになったら落ち着くと思う。考えてみれば、結婚を決めてから初めて同棲するようになったわけだけど、全く違和感がなかったからね。に対して、今は薬を飲む回数が少し増えている」
「だったら、今日は俺じゃなく舞さんに会うべきだったんじゃないのか?変なところで遠慮するなよ」
でも・・・、ちやほやされたせいで調子が狂っただなんて、舞に言えないじゃないか。
「独身の男同士の夜も貴重だから、いいの。・・・ねえ、アイスを食べようよ。そこのドライブスルーに寄って」
「・・・ったく、しょうがないな」
もう少ししたら落ち着くから。きっと。