昨日最終オーディションに行ってきた。・・・まだ親父には話していない。
「でも、入賞したら世間に名前が出ることになるんでしょ?だから、結果が出る前にきちんと話しなさい」
通知が届いた時にオフクロには知れてしまったが、親父には話していないらしい。・・・大体、ほとんど家にいない人なのだ。だから話そうにも話せない、それに加えて威圧的な態度を取るから余計に、話す勇気がなくなるというものだ。でも、もし入賞したら、すぐさま親父との関係は世間に知られてしまうわけで、そうなると親父にも影響が出てくることになるから、言わないわけにはいかない。
“でも僕は、同席するだけで何も言いませんからね”
頼みの綱の沢渡は協力してくれるものの、その協力は最小限にしたいと言ってきた。
「それでもいいよ。誕生日のときも、沢渡がいたらおとなしくなっていたし」
とりあえず話ができる雰囲気にはなると思う。普段はホントに俺のことをまともに見ようともしないので、とても親だなんて呼べない人なのだ。
“でも今は推薦入試の時期ですよね、受験のことについては何も仰らないんですか?”
「多分、自分は国立出だから、この時期に私立の入試があることも知らないんじゃないか?」
はぁ~、とこれには沢渡も呆れたような声を出す。
“でも、仕事に関する限り、兼古大臣は評判がいいですよ。とても熱心に取り組んでいらっしゃる。ただ仕事熱心なあまり、家庭のことにまでは気が回らないご様子なんですね。だから今回は、先輩の価値を大いにアピールするチャンスなんじゃないですか?世間が先輩のことに目を向けてくれたら、お父さまとしても無下に扱うわけにはいかなくなりますからね”
それはそう思う。でもそれは、オーディションに合格したら、の話だ。やるだけのことはやったと思うけれど、俺は素人だからプロの目線は分からない。
“それで先輩、受験勉強のほうはどうなっているんですか?”
・・・それは聞いてくれるな。はっきり言って、オーディションのことや親父のことが気になってしまい、勉強が手につかない。このことがまた美智にとっては、印象悪化に繋がるらしい。
「一応受けるけど、あくまでも一応、な。まあ、困った時にはクリウスに入れてもらうよ」
進学者の半数は内部進学するし、内部進学はかなり基準が低いから、生徒会長をやっていた俺としてはおそらく問題ないと思う。
“分かりました。それじゃ、明後日の夜お伺いしますので、頑張ってくださいね”
あくまでも沢渡は最後の頼み。自分で説得できるよう、作戦を練らなくては。