学食の反対側では、沢渡と深雪ちゃん、そして何故か朝霧までもが一緒になって楽しそうに食事をしているというのに、このテーブルの雰囲気は・・・どうしたものか。
美智は、俺のこともだけど自分の入試が迫ってきているのでナーバスになっている。俺の目から見ればその成績で落ちるはずなんてないが、いつも強気な美智でもナーバスになることがあるのだ、とそれはそれで貴重なひとときを噛みしめている。・・・しかし当の本人は、それに気づかれまいと必死だ。
「ふ~ん、それで明日、沢渡くんに立ち会ってもらうんだ」
嫌味っぽく言ってはいるが、そうでもしていないと緊張でガチガチになってしまうみたいだ。不安なら不安だと一言言えば俺だって励ましの言葉の一つでも素直にかけてあげるのに、かわいくないな。
「ああそうだよ。沢渡からは何も言わないというのが条件だけど、沢渡がいてくれさえすればこっちのものだ。親父は沢渡の手前、俺の話をきちんと聞いてくれるだろうし、俺としてもいてくれるだけで安心できる」
「そうよね・・・、私も沢渡くんから何かお守りをもらってこようかしら。心強いわよね」
ちょっと待てよ。何で俺を頼らない?
「何よその目は。テストなんだもん、こういう時は賢い人じゃないと意味ないでしょ」
緊張を和らげることなら、俺にもできそうな気がするけど?
「お前、ちょっと落ち着けよ。緊張したら、解ける問題も解けなくなるんじゃないか?そういうことは、全国大会の舞台に立った俺には分かる」
美智がきょとんとした目で俺を見る。考えてみれば、演劇の舞台に立つことは普通緊張するものなんじゃないか?でも我が演劇部のメンバーには、王宮で緊張し過ぎず実力を出す訓練を受けている沢渡や朝霧、いざとなったら物凄い集中力を見せる深雪ちゃん、そして生徒会長として人前に立つことに慣れている俺がいるから、本番直前でもそう慌てた雰囲気にはならなかった。代わりに、見ていることしかできない美智は、いつも緊張していた。
「お前も、たまには舞台に立ってみればよかったのに」
「そんなこと今頃言わないでよ。あくまでも私には裏方の仕事が向いているみたいだから・・・」
「受験するのはお前自身だろ?誰も代わりを務めることなんてできない。・・・でもお前なら大丈夫だ。いつも模試でいい点を取っていて、判定だっていつもAだったんだ。このまま行けば絶対大丈夫。さっさと合格して、俺の心配をしてくれよ」
「祐輔・・・」
食事を終えると、美智を柱陰に連れ出して、抱きしめてあげた。・・・つくづくプライドが高い人間だ。だったらそのプライドをかけて、とりあえず合格しろよ。