11/10 (木) 20:00 ひとり

今日も親父は夕食までには帰らず、オフクロと弟の三人でテーブルを囲んでいる。しかもそこには会話がほとんどなく、黙々と食べるかテレビのニュースに目を向けているかのどちらかである。

しかし、三人の視線が吸い寄せられるようにテレビに集まった。・・・そこで流れていたのは沢渡が出演しているCMだ。

「いつ頃テレビに出られそう?」

弟がぼそっと呟く。

「まだ分からないけど、できるだけその日が早くやってくることを願っているよ」

「そういう目立ちたがり屋の精神は、全部お兄ちゃんのほうにいったみたいだね」

確かに弟は控えめ、だけど勉強はできる。・・・よく言われることだけど、俺たちはあまり似ていない。

「お前はどの高校に行くんだ?」

「クリウス以外ならどこでもいい。こういう兄を持つと、弟はなかなか大変なんだよ」

「俺が役者になることにも反対なのか?」

「別に反対はしないけど・・・」

けど?・・・しかし、しばし待っても続きは聞けず、弟はまた食べることに精を出し始めた。仕方ないのでオフクロのほうを見ると、オフクロもまた首を傾げて食事に戻った。・・・何なんだ、この家族は。

とりあえず変な空気の食卓からは退散して、部屋で入試の過去問を解くことにする。ただ、来週と再来週に一つずつ受けることにはなっているが、合格する気がしない。もともと学力には自信がないので、内申書と面接だけが頼り。でも、そのくらいで合格するほど、外部の大学は甘くない。

つくづく、俺の周りの人間はどうして頭がいいヤツばっかりなんだ?沢渡や美智は言うまでもなく、朝霧にしたって、学校の勉強は必死らしいがヴァイオリンの腕前は世界一、そして語学も堪能でトリリンガルなのだそうだ。・・・俺は、外国語がダメ、歴史も苦手、まだマシなのは数学の基礎くらいだろうか、理科も専門的なことはチンプンカンプンだ。

ただ、美智、ましてや沢渡に協力を仰ぐわけにはいかない。一応これまでも世話になっていた家庭教師にもっと来てもらうことにはなっているが、暗記をやるのは俺自身だ。・・・親父の息子なのだから、潜在的な能力はある、と信じて。とにかく目の前の課題に取りかからなければならない。

将来のための第一歩を踏み出さなくては。

オーディションの結果は土曜日・・・。

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