学食に行ったら沢渡がいたので、美智を引っ張ってお邪魔しに行った。
「この間はありがとうな。・・・でもお前、カッコよすぎだろ、あれは」
「丁度その前に、KZと打ち合わせをしていたんですよ。そしてついでにコーディネートしてもらったわけです」
深雪ちゃんと朝霧は、何のこと?と沢渡に状況を聞いている。そうか、KZか。殿下もご愛用されている洋服のブランドのデザイナーだ。デザイナーと直接話ができるなんて羨ましいな。
「いよいよ明日ですね、先輩方」
美智の入試も、オーディションの結果発表も同じ日。・・・美智は更にナーバスになっているので、仕方なく沢渡に耳打ちする。
「俺がいくら言ってもダメなんだよ。お前の口から励ましの言葉が聞きたいんだと。頼むよ」
沢渡は意外そうに一瞬美智を見た後、改めて口を開いた。
「清水先輩、新作の構想は固まっていますか?」
いきなり何を言い出すんだ?・・・これには美智もビックリしたようで、顔を上げる。
「まだ何とも言えないわね、・・・最近はそれどころじゃないし」
「でもそれが大事でしょう?大学に何をしに行くつもりなんですか」
それはその・・・、とたじろぐ美智。悔しいけれど、今の美智には一番効く励まし方だ。だって本来、美智が学力検査で落ちる心配は全くと言っていいほどない・・・緊張して我を忘れない限り。だから、演劇に対する情熱を思い起こさせることが、そのまま集中力を生み出すことになるのだ。
そう思うと、本当に沢渡には人を見る目と統率力があるので、彼の仕事は天職なのだと思える。でも実際は、苦労して身につけたに違いない。入学したての頃のことは、今でも覚えている・・・表情がなく、人に対してバリアを張っていた。
つまり大事なのは自信を持つことなのだ。過剰でもいけないが、自分を信じて行動し経験値を上げていくしかない。一足先に社会に出た彼には今では少し余裕が出てきて、だから余計に周囲に対しても気配りができるようになっている。・・・俺がまだ不安定だから、美智は俺のことを頼れないのかもしれない。俺も早く一人前の男になりたい。
「兼古先輩は、入試のほう大丈夫なんですか?大学に合格しないと、折角オーディションに合格しても、泡となって消えてしまいますよ」
「うるさいな、やってみなきゃ分かんないだろ!・・・入試はまだ、来年になってからも続くんだ。そのうち一つは合格するよ」
「こればっかりは先輩が自分で頑張るしかないですもんね。・・・でも応援していますから」
・・・ありがとう。その期待に応えられるように頑張るよ。