困った。
希は言葉通り、私に会う時間を作って家にまで来てくれたのだけど、ソファーに一緒に座って話をしていたら、そのまま私にもたれかかってきてすっかり寝入ってしまった。やっぱりあんなことを言わなきゃよかった。でも寝顔を見れることは幸せなことでドキドキするけど・・・重い。それに、30分だけという約束で出てきた、と言っていたから、そろそろ起こさないと。
「ん~~~?」
「そろそろ起きないと。加藤さんがお待ちなんでしょ?」
「うん、そうだな。・・・ゴメン、また寝ちゃった」
希が体を起こして、目元に手を当てる。うわ~、眠そう。
「早く宮殿に帰って寝たほうがいいよ。あんまり無理しないで」
「おかしいな。普段はちっとも眠くならないのに、深雪の顔を見たら安心したみたい。・・・でも、少し寝たら元気になったよ」
ウソ。慢性的な睡眠不足が、これくらいで解消されるはずがない。・・・とは思ったものの、改めて希の顔を見てみたら、来たときよりも随分とスッキリした顔になっていた。こんなことってあり?
「最近は、深雪に迷惑をかけないようにしよう、疲れた顔を見せないようにしようと、会うのを我慢していたんだけど、あまりの忙しさにおかしくなってきたみたいだ。・・・こんな俺じゃダメかな?少しでもいいから一緒にいたい」
仕事帰りらしく、スーツ姿の希。あまり顔色はよくなくて、髪も服も少し乱れている。でも不謹慎にも、そんな姿がカッコイイと思ってしまった。しかも、財務長官はこんな顔を絶対に見せたりしない。それを私だけに見せてくれるなんて嬉しすぎるし・・・なによりも、
「私も一緒にいたい」
そのまま希に抱きつくと、彼が優しく抱きしめてくれた。・・・希の香り、温もりに包まれていると安心できる。
「じゃあ、時々会いに来てもいいかな?ただし、あまり長い時間は取れないかもしれないけど」
「うん、いいよ。それで希が少しでも元気になってくれるのなら」
ありがとう、と希が唇を重ねてくる。・・・ご褒美をあげなきゃいけないのは私のほうなのに、こんなに優しくされてもいいの?
とその時、希の胸ポケットの中で、二度、電話が震えた。
「タイムリミットだな。でも、今日のところは十分にエネルギー補給できたよ。ありがとう」
最後にもう一度、今度は頬にキスをして、希は立ち上がった。
「うん。お仕事頑張ってね」