なのに、あの光景が脳裏から離れない。たかだか夢なのに・・・。どうしてこんなに気になるのか。舞を失うことになってしまったら?・・・それは、先日目の前で沢渡くんと深雪ちゃんとのやりとりを見たこととも大いに関係がある。
深雪ちゃんが記憶喪失になったことが分かったときの、沢渡くんの表情が忘れられない。もちろんあれは半分演技だったわけだが、思い返せば、深雪ちゃんが傷をつけられたときの焦燥ぶりも尋常ではなかった。・・・その一方で、僕はこれまで舞を失いかけたことすらない。仕事を優先させると宣言しているし、でもだからと言って危機的な状況になったことはないと言っていい。
あの夢にはどんな意味があるのか・・・。
仕事帰りに頭を冷やしたくて舗道を歩いていると、見たことのある車が信号待ちをしていた。・・・一応助手席を確認すると、誰も乗っていない。
車の間をすり抜けて窓をノックすると、開いた窓から、驚いたというよりは半ば呆れた表情の運転手が顔を覗かせた。
「皇太子ってのはそんなに暇なのか?早く乗れ」
祐一はこれからスタジオに向かうところだったそうだけど、宮殿まで遠回りして送ってくれることになった。
「でもそれはたかだか夢だし、逆に死ぬ夢って縁起がよかったんじゃなかったか?」
ギクッ。・・・悪い意味でなくても、死ぬとか言わないでよ、と自分で思って気がついた。普段は死のことなんて全く考えていないのに、意識している自分がいることに。まさか、今日祐一にたまたま会ったのも、別れを言わせるためではないよね?
「例えばもし、僕が死んだらどうする?」
「何だよ、いきなり。・・・え~、そんなこと考えられないよ。仕事の面では、沢渡くんがいるから何とかなるんだろうけど、・・・俺の親友と呼べる人間はお前しかいないから、勝手に死なれたりなんかしたら困る」
・・・そんな風に思ってくれていたんだね、ありがとう。クリウスで出逢ったときから随分長い年月が過ぎているけれど、あの頃のことは今でも鮮やかに思い出すことができる。・・・バカなことばかりやっていたね。そしてこれからも、僕たちの付き合いは続いていくわけで・・・。
「悪いが、スタジオに寄るだけの時間あるか?お前の声をもう一度聴きたい」
え?何?・・・でもいつになく真剣な眼差しに、僕は寄り道を承諾した。
何故か僕のほうも、このタイミングを逃してはいけないような気がしていた。