今日は響殿下の誕生日。折角深雪もいることなので、昼間から、結城、加藤も集まって、朝霧による『Symphony』の演奏会が、僕の部屋で行われている。
本来なら、響殿下ご夫妻をお招きして、直接曲をプレゼントするつもりで、朝霧もこの曲を書いたとのことだったが、それは叶わなかった。それどころか、僕も演奏に、少しばかり参加したいところだったのに、一緒に座って聞く側に回ってしまっている。
世の中、なかなか思い通りにはならないものだ。
「響殿下のお部屋って、今はどうなってるの?」
「毎日掃除には入ってるようだが、何も変わっていないそうだ」
「そうなんだ。…お花を手向けに行ってもいいかな?」
「うーん。アイツのことだから、邪魔するな、とか言うんじゃないかな?だから、ドアの前までにしておいたらどうだ?」
…そうか。確かに、折角お二人になれたのに、水を差すようなことをしては申し訳ない。それにやはり、部屋の主がいらっしゃらないのに、勝手に上がり込むのは失礼だ。
そういうわけで、リハビリも兼ねて、響殿下のお部屋まで向かうと、ドアの前は、すでに花で埋め尽くされていた。…みなさんに愛されていたんですね。そして僕もお花を授ける。
申し訳ありません。殿下のご期待に添えるには、まだ程遠い僕で…。早く身体を治して、バリバリ仕事をこなせるようにします…。
そして部屋に帰ってきたが、僕は少なからず落ち込んでいた。このやるせなさを、ピアノにぶつけようと思ったが、そこまでの体力がない。何をするにも中途半端で、自分が嫌になる…。
「沢渡、自分を責めるんじゃない」
一応、グループとしては、響殿下の部屋の前で解散したのだけど、結城は、僕を部屋に送るという名目で、一緒についてきていた。
「でも…」
「誰にだって、失敗や思い通りにならないことがある。そして、そうやって焦ると余計に、治るものも治らなくなる」
「でも僕は、みんなに迷惑をかけっぱなしで…」
「回復が遅いのは、討論会にお前を立たせるために、強力な薬を使ったからだ。あらゆるリスクを検討した結果、討論会が最優先だと俺が判断した。そのおかげで、討論会は成功したんだから、それでいいじゃないか」
うん…。
「人間だから、俺だって具合が悪くなることもあるし、その辺はお互い様だ。今はまず、早く治すこと。早く体型を元に戻すこと、だ。そんなにやつれたままじゃ、ファッションショーで映えないだろ?」
あ…。その通りだ。衣装の直しが必要となったりしたら、また迷惑をかけてしまう。
「ほら、深雪ちゃんも泣いてるじゃないか。これ以上心配かけるなよ」
あ…。
「いえ、いいんです。私でよければ、ずっと希についていますから」
「ありがとう。世話の焼けるヤツだけど、面倒見てやってくれるかな?」
はい…、と深雪は涙声で返事をする。
「ありがとう。深雪がいてくれて、本当によかった。…疲れたから、ちょっと横になっていいかな?」
そして、結城がベッドに寝かせてくれる。…そうか、強い薬を使ったからか。それにしても、体力が落ちている。明後日には復帰予定なのに、大丈夫かな?…少し休んだら、部屋のランニングマシーンで、歩く練習を始めようと思う。