レッスンは、所属事務所の建物で行われている。俺の他にも参加者がいるので、演技の参考になるし、ライバル心も煽られる。しかし、まだ俺は新顔で、まだなじめているとはお世辞にも言いがたい。…俺の演技をあざけるように見る視線が痛い。
そういうわけで、休憩のときは、レッスン場を離れて、ロビーで休むことにしているのだが、ちょうどテレビに、沢渡が映し出されていた。もう仕事に復帰しているんだな。…この間まで寝たきりだったとは思えない回復力だが、やはりただでさえシャープな顔立ちが、一層鋭さを増しているのは、隠しようがない。
「即位して間もないのに、いきなり仕事に穴を開けるとか、大丈夫なのかな?」
何?…振り向くと、事務所の先輩たちが、テレビを見ながら腕組みをしながら、渋い顔をしていた。
「その顔は何?…あっ、そうか。兼古くんは、沢渡殿下と部活で一緒だったんだよね。…いや、部活と言っても、お遊びみたいなものか」
何だって!!!
「失礼なことを言わないでください。全国大会でも優勝しましたし、お遊びではありません」
「それも、疑わしいよね。ホントに、実力で勝ち取ったと思ってるの?それくらいどうにでもなるんじゃないの?」
「陛下も、沢渡殿下のことを随分とかわいがってるみたいだしね」
それはどういう!!!
「あの、俺のことはいくら悪く言っても構いませんけど、沢渡のことを悪く言ったら、俺許しませんから」
「すごっ、呼び捨て。でも、社会人としては、よくないんじゃない?あっちは、殿下だよ?」
あ…。つい、いつもの癖で。
「君もねえ、今までのことがそう簡単に通用するとは思わないほうがいいよ。大臣の息子だか、殿下の友人だか知らないけど、そういうの全然関係ないし」
「そのほうが、俺にとっては都合がいいです」
「でも絶対、コネを使ったんだろうって思われるよ?」
「でも最終的には、実力がモノを言う世界ですよね。それ以上でも、それ以下でもありません。こんな話をしても、何の利益も生まれませんし、失礼します」
どうせ、ああいう人たちは、ああ言えばこう言う、という感じで、他人のことを批判してばかりいるんだ。そういう人の相手をしていても、時間の無駄。しかも、弱い犬ほど吠えるっていうし、相手にしないほうがいいな。
「兼古くん、気にしないほうがいいよ。言いたいヤツには、勝手に言わせておけばいいんだ」
そのとき、同じくレッスンを受けている人が、声をかけてきた。
「ご心配には及びません。ありがとうございます」
「いや、僕のことまで警戒しなくていいよ。同じ夢に向かって進む同士、仲良くしようよ」
…え~と、仲良くするのはどうなんですかね?…確かに、見た目的な感じでは、平和を好むタイプみたいだけど、あまり慣れ合うのもよくない気がする。