今日は、学年末試験を立て続けに受けさせてもらってから、卒業式のリハーサルに出席するために講堂に向かった。リハーサルには、卒業生全員の出席が義務づけられているが、在校生は関係者のみなので、送辞を読む僕と、オーケストラ部の部長、放送部くらいである、…はずが、試験を終えた生徒たちが、こっそり様子を覗きに来ているようだ。ま、リハーサルに支障が出ない限り、特に咎めはしないようだが。
「沢渡!久しぶり。もう大丈夫なのか?」
答辞を読む兼古先輩と顔を合わせるのは、お見舞いに来ていただいたとき以来か。でも一瞬見違えてしまうほど、印象が変わった気がする。
「先日は、お見舞いに来ていただいて、ありがとうございました。僕はもう大丈夫ですけど、それよりも、先輩感じが変わりましたね」
「そうか?」
「そうですよ。精悍な顔立ちになったというか、大人な感じになりましたね。役のせいですか?」
「まあそれもあるけど…、一人暮らしって結構大変でね。そっちのほうが、勉強になることが多いかも」
え?
「沢渡は、一人暮らし出来なそうだよな。…いや、する必要はないだろうから、別にそれでもいいけど」
えーと。どう答えてよいものやら。と思っていたら、他の卒業生が、次々と押しかけてきた。
「沢渡。悪いが、一緒に写真を撮ってくれないか?」
「サインほしいんだけどいい?」
「え~!私も、私も」
あの~。まあでも、先輩のみなさんにはお世話になったから、時間の許す限りはそれにお応えすることにしますか。兼古先輩とは、明日の打ち上げでも話す時間はあるだろうし。
はさておき、深雪に会いたい!ここ数日すっかりストレスがたまってしまったので、会って癒やされたい。
「申し訳ありませんが殿下、そろそろお時間が…」
「深雪に会ってから」
「ですが、時間が押しておりまして…」
「キスだけでも」
「殿下」
加藤にしては珍しく、目で釘を刺してくるので、仕方なく玄関へ移動しながら、深雪に電話をかける。
「ゴメン、急いで玄関に来て。もう時間がないんだって」
幸い、玄関手前で深雪と会えたので、近くの教室に連れ込み、熱い抱擁とキスをして、
「明日はゆっくり一緒に過ごそう」
すぐさま、仕事へと向かうことになった。