5/1 (月) 18:00 期待とその現実

そもそもクリウスに入学しようと思ったのは、演劇部のレベルが高いと聞いていたからだ。中学の時に演劇に魅せられて、顧問の先生や先輩と相談したりしていたけど、全国大会の模様をテレビで見たことが決定打になった。

もちろん優勝したことも理由の一つだけど、ある意味直感的に決めていた。ただしそのあとで、クリウスは学費が高いこと、演劇部のメンバーは財務長官・・・後に皇太子の肩書きも追加、大臣の息子、ヴァイオリニストほか、随分と育ちがいいということを知って、決心は揺らぎ始めた。

だから、何度もビデオや雑誌を見た。すると、ある人ばかり見ている自分に気づいた。川端深雪さん・・・よく見たら年はひとつしか違わない。なのに周りの先輩たちに引けを取らない演技力があった。そういう意味で、実力さえあればすぐにでも舞台に立たせてくれるところが、ますます気に入って・・・でもそれは表向きで、ただ彼女に会ってみたいという思いが、大半を占めていたのかもしれない。そして無事に、推薦枠で入学することが決まった。少しばかり成績がよかったので奨学金つきで。

でもそのあと、またどん底に突き落とされることになってしまった。沢渡先輩の恋人であると、マスコミが報道していたからだ。

実際クリウスに入学してみると、確かに周りはうるさくて、カルチャーショックを受けることはしょっちゅうあるけど、肝心の演劇部は、新入生歓迎会でもそのレベルの高さを見せ付けてくれていたので安心した。

オーディションでは、深雪先輩がまさか相手役になってくれるなんて思ってもみなかったから、凄く緊張したけど、同じ舞台に立ったらそんなことは忘れていた。先輩が、俺の能力を引き出してくれたんだと思う。俺の中の役者魂が、先輩のそれと共鳴し合って、束の間だったけど、今までに感じたこともない快感に包まれた。これだよ、こうでなきゃ!またしても直感的としか言えないけれど、魂が喜んでいる今日この頃・・・。

一年生だけのビデオドラマ作りを命じられて、一年全員で過去の作品をいくつか見た。先輩方は、毎日入れ替わり立ち代わりその時のエピソードとかポイントを教えてくれて、先輩方、そして一年同士とかなりいい関係になって来ているような気がする。みんないい人でよかった。・・・ただ、深雪先輩とは、全然言葉を交わしていないのだけど。

今日は、金曜日に見に行った作品の感想を話し合った。・・・沢渡先輩は休みなんだ。

終演後は大変だった。周りは凄い歓声、そしてフラッシュの嵐。なのにその主役は、ほとんど気にせず俺にずっと話しかけて来ていて・・・これ以上ないほどドキドキした。思わず舞い上がってしまいそうになった。かと思えば深雪先輩とラブラブなところを見せ付けられるし、でも昨日メールを書いたらちゃんと返事をくれるし。遠いようで近い、しかもいろんな顔を見せて、まるっきりつかめない不思議な存在・・・でもいないとなると、妙に寂しい気がする。何なんだ一体。

「それじゃ、三年生は明日から修学旅行なので、二年生は一年生をしっかり指導してあげてください。一年生は来週の月曜日の上映会までに、しっかり仕上げておいてくださいね。・・・明後日は遠足だよね、みんなどこに行くの?」

クリウスの遠足は学年を問わず好きなところに行けるとかで、入学早々アンケート用紙が配られた。ここではみんな挙手で、行き先アンケートだ。

「○○山にハイキングの人は?」

俺はこれ。・・・あ、深雪先輩も一緒だ。あとは撮影をしてくれる石井先輩とか、一年ではヒロイン役の水島さんとか。結構多いんだね。

「打ち合わせもありかもしれないわね。じゃあ、今日はこれで解散」

お疲れさまでした。・・・打ち合わせもあり?遠足なんて疲れるだけだと思っていたけど、これは面白そうかもしれない。

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