5/18 (木) 20:00 発展的解消

水辺の夜景が綺麗なレストランで。

僕たちは再会の喜びを分かち合って、その間にあったいろいろなことを空白を埋めるように一気に話し合った。

「沢渡とは、久々に会ったって気がしないな」

デザートが出る頃に、先輩がふと感慨深げに言った。

「それは、僕に対しては会いたい・・・と思うことが少ないからですよ。会いたいと思うのに会えないと、同じ時間でも長く感じてしまいますよね」

「それもあるかもしれないけど」

先輩は一つため息をついて、浮かない表情を覗かせた。

「厳密に言うと、お前とこうして話すのってかなり久し振りじゃないか。美智のそれとは比べものにならないほど長い時間を挟んでいるわけだよ。なのに普通に話せるし、違和感なんて何も感じない。でもこの間美智と会った時・・・半月くらいなのに、何から話していいか分からないくらい、気まずい空気が流れたんだ。もちろん、しばらくしたらいつもの調子を取り戻せたんだけど、これから会う度にそんな思いをするのかと思うと、ちょっと憂鬱で・・・。沢渡はそんなことない?」

遠足の一件はさすがに話したくないな・・・。でも僕たちは会っている時、会えなかった時間の分も一緒に幸せを感じていると思う。久々の再会って一番燃え上がる瞬間でもあるような気がするけれど・・・。

「先輩がそうさせているんでしょ、清水先輩はずっと待ってくれているのに・・・」

「そうなんだけど、いつもかも会えないじゃないか。お前ら、どうして続いてるんだ?秘訣を教えてくれよ」

先輩ったら。・・・でも先輩方と僕たちでは状況が違いますからね。

「僕はいつも深雪を悲しませたり、我慢させてばかりいますよ。だって先輩と僕は学生と社会人という二つの職業を持っているわけじゃないですか、でも彼女たちは学生だけ。環境が違うんだから、対等にはなれませんよね。特に学生と社会人って大違いでしょ」

心当たりがある、と先輩は苦笑いしていた。

「それでいて、結局は僕たちの責任なんですから、埋め合わせの努力は絶対必要ですよ。何をすればいいかは自分で考えてくださいよね」

自分たちのことでしょ・・・。なのに先輩の顔が更に曇った。知ってはいけない事実を知ってしまったような気がする。まさか・・・先輩・・・。

「もしかして、今俺が何を思ったのか分かった?」

はい・・・、何となくですけど・・・。

「ほら俺の環境が随分と変わっているだろ?今までの自分じゃこの世界では耐えられなくて、芸能人兼古祐輔という存在になりきろうとしている。でもやっぱりそれにはなかなか慣れなくて、普段の自分に戻りたくなる。そのためには美智に会うのが一番だと思ったんだ」

うん、凄くよく分かりますよ。

「確かに彼女は何も変わっていなかった。・・・でも変わらなさ過ぎたんだ。会ってる時はいいんだけど、すぐには芸能人の顔に戻れなくなる。折角新たな自分になりきろうとしているのに、引き戻されたんじゃ前に進めないよ」

・・・僕はすぐには返事を出来ないでいた。その気持ち痛いほどよく分かる。「光と影」の時、深雪が割り切れないというので僕は普段から悪魔に徹して見せた。それは僕だから出来たことで、もし反対の立場だったら、彼女にはそうさせることなど出来るはずもない。仕事も大切、恋人も大切。でも両立することが出来ないのなら、どちらかを選ぶことになるのはやむを得ない。もちろん仕事を取りますよね。

「しばらく会わないでいようって言おうかな。・・・それに今沢渡に言われて思ったんだ。『埋め合わせを考えるなんて面倒だ』って。自分のことだけでも手一杯なんだ」

「面倒だなんて絶対言っちゃいけませんよ!先輩のことをこんなに思ってくれる人は他にいないでしょ」

「うん、それは分かってる。・・・しばらく時間をおくだけだよ。沢渡は見事に両立できているんだから不可能ではないにしても、俺は一般人だからそうは器用に出来ない」

そんなに卑下する必要はないと思いますけど。

「でも僕も深雪には、仕事を最優先させることは伝えてあります。それで彼女が悲しむようなら、すっぱり別れる覚悟は出来ています。先輩もいくつもの障害をクリアして夢を実現させることにしたんですから、貫いてくださいよね」

本当は深雪より、僕のほうが危ういんだけど。

でも先輩たちはもっと長い目で見たほうがいいと思う。一過性の恋愛などではないことは、誰の目にも明らかだ。このままダラダラ行くより、スパッと区切ってまた戻る、先輩の意見に賛成だ。先輩には役者として成功してもらいたい、清水先輩にも脚本家として活躍してもらいたい。清水先輩だってきっと今に忙しくなっていくと思う。二人には切磋琢磨しながら、その生まれ持った才能を開花させてもらいたい。

「また相談にのってくれるかな?」

「いいですよ、僕でよければ」

先輩の夢のためならいくらでも協力しますよ。・・・こんな風に自然に思いが湧きあがってくるといいんだけど。・・・意識してはいけないんだよね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です