とりあえず加藤にはいつもそばにいてもらっている。目が見えなくなって不便なことは、意外にも自分の身の回りのことではなく会話だった。というのは、宮殿にはいろいろな人がいる上、人の出入りがとても激しいため、その場に誰がいるのかをきちんと把握して、相手によって会話の内容や声のボリュームを変えないと、取り返しのつかないことになるのだ。
検査のために宮殿のあちこちに出向いたら,、その面で今日は疲れてしまい、やっぱり部屋にいるほうが気楽なのかもしれないと思うようになった。とはいえ、昼間は仕官の出入りがあるが・・・。まだ時間の感覚がおかしい。とりあえずボタンを押すと音声で時間を教えてくれる腕時計を渡されたのだけど、少しも時間が経っていなかったり、また思っていたよりも経っていたり・・・。
学校のことも心配だ。試験の日に休んでしまったので再試験があるのだけど、このままでは受けられない。それどころか授業もままならない。いつまでも休んでしまうわけにはいかないけれど、まだ事情を話すわけにはいかない、というのが王宮の見解だそうだ。でも隠し通せるわけなんてないし、部活のみんなにも迷惑をかけてしまう。・・・今頃みんな部活をしているのに。朝霧がしどろもどろになっていそうなのに。
「響殿下と結城さんがお見えになります」
そのアナウンスに僕は居住まいを正し、加藤に外見的な問題がないか聞く。
「沢渡くん!」
立ち上がった僕に、殿下は駆け寄り抱きついてこられた。
「沢渡くん、・・・あぁ、どうして沢渡くんがこんなことに」
そしてズルズルと床のほうに崩れ落ちていかれる。
「殿下、僕は大丈夫ですので、心配には及びません。僕のほうがみなさんに迷惑をおかけしてしまって申し訳なく思っています。どうぞ、お立ちください」
ほら響、と結城の声がして、殿下は抱きかかえられるように僕から離れていかれたようだ。僕は加藤の助けを借りてソファーに腰を下ろす。
「いい?沢渡くん。世界中の名医を呼んで治してもらうからね。他に僕に出来ることはない?」
あ・・・、殿下にお願いしようかな。
「学校のことが心配です。授業のこともですが、部活の先輩方にうまくとりなしていただけないでしょうか?」
「分かった。僕に任せて」