みんなは、沢渡先輩が冷たくなってなんて言って敬遠しているけど、私としてはそれどころではない。私の演技のことがとにかく心配・・・。
妹のおかげで、お兄ちゃんはまた生きようと思う・・・だから私が目一杯励ましてあげなきゃいけないのだけど、まだ弱いのか、練習の合間でも沢渡先輩はあまり笑ってくれない。しかも部長から、先輩ともっと話をするようにと言われてしまった。・・・もう地区予選までそんなに日がないのに、大丈夫かな?
「先輩、私の演技はまだまだですか?」
休憩時間、このところ先輩は一人でたたずんでいることが多いので聞いてみた。
「ううん、心に染みるよ。僕自身も頑張らなきゃって気になる」
先輩は・・・以前私が言ったことを気にしてくれているのか、顔にフィットした形のサングラスをかけている。このところ部活以外の時にも眼鏡をかけていて、先輩って目が悪いんだ、という新発見があったのだけど、眼鏡にしろサングラスにしろデザインがカッコよくてとても似合っているところが素敵。
「先輩、そのサングラス、どこのですか?」
・・・うわっ、しまった。何を聞いてるんだろう、私は!先輩も、はぁ?と気が抜けたような表情をした。
「す・・・すみません。集中していないわけではないんですけど、つい・・・」
「これはKZだよ。サングラスに限らず、このピアスもそうだし、服もほとんどそうだね」
KZといえば殿下の御用達ブランドとして有名で、この間行われた婚約会見の時のファッションもそうだったと、ワイドショーで紹介されていた。
「とてもよく似合っています」
「そう?ありがとう」
あ・・・笑った。すみません、変なこと聞いて。呆れちゃいましたよね。
「君相手だと、何だか自然に話せるんだよね。でも折角電話番号を聞いたのに電話できなくてゴメン。このところ凄くイライラしてて、つい余計なことまで言ってしまいそうだったから控えてる」
「だって大変だったんですもん、しょうがないですよ。・・・あまりに大変すぎてどんな風に励ましたらいいのかよく分からないんですけど、私も気持ちは役の早苗と同じです。先輩の素敵なピアノ演奏を聴かせてください。以前少し聴かせていただいた時とても感動したので」
・・・先輩はサングラス越しにずっと私のことを見ていた。そしてしばらくすると、分かったよ、今度必ずね、と言ってくれた。