6/29 (水) 23:00 彼氏として

宮殿の中は、間もなく始まる議会の準備で大わらわになっている。僕も、中川財務長官の下で仕事を手伝わせていただいているが、・・・どうにもパソコンの操作がしにくくて困る。

ドクターの診断によると、全治1ヶ月程度。幸い左腕なので日常生活の大半にはさほど影響がないが、それでもトイレや入浴のときは手がかかる。ただ僕はこれまでにも武術の稽古の際に何度も怪我をしたことがあるし、困ったときには仕官に助けを求めるという手があるので、それほど深刻にはとらえていない・・・のだけど、さすがに有紗さんには会い辛い。

あの日、僕は有紗さんの部屋に出向き、別れを切り出した。でも花瓶を投げつけられた後も僕は平静を装って部屋を後にしたので、腕を折ってしまったことに対しては何も聞いていない。・・・有紗さんも僕にはしばらく会いたくないだろうから、知らないフリをしておこう。

そして深雪ちゃんに電話をする。

「付き合うことになったものの、ろくにデートもできなくてゴメンね」

“いえ・・・、先輩と付き合うことになったのが、今でも信じられないくらいです・・・”

だったら余計に彼氏らしいことをしてあげたいのだけど、今は忙しいこともあって面倒を起こしたくないという気持ちもある。あぁ、もっと時間がほしい。でも現実にはデートに行く時間を作り出すことは難しそうで・・・でも、何か一つは彼氏らしいことをしておかないと、僕の気持ちを疑われそうな気がしてしまうし。

「あのね、正直に話すね。僕は仕事をしていて、今はとても忙しいんだよ。もちろん君のことを一番に考えてはいるけど、しばらくは行動に移せそうにない。・・・本当にゴメン、電話だけで許してくれないかな?’

変なことを言っているな、僕は、こんな中途半端な態度をとらざるを得なくなるのなら、告白するのを遅らせればよかったとも思ったのだけど、彼女のことを誰かにとられたくなかったのだからしょうがない。

“仕事ですか?どんな?”

「もうすぐ定例議会が始まるでしょ?僕はそれに携わっている」

“議会って・・・え?”

その様子は、信じていないのかピンと来ていないのか。いずれにせよ、僕は彼女に隠し事をしたくないと思った。

「君には、何でも質問していい権利をあげるよ」

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