10/26 (水) 19:30 相談

沢渡が指定したのが宮殿の外のレストランだったので、少し妙な気分だった。

「たまには外で会うのもいいじゃないか。実はこの後も用事があるので都合がいい、というのもあるんだけど」

「深雪ちゃんに会いに行くとか?」

すると、一瞬たじろいだ後、何でもかんでも深雪と結びつけるな、と怒られてしまったわけだけど。

「それで話って何?ヴァイオリンのこと?それとも他のこと?」

と聞かれ、逆に今度は僕のほうがたじろぐ羽目になった。・・・でもそれはまだ言わないことにして、例の件について聞いてもらう。

「朝霧からの誘いなら大歓迎だ、と言いたいところだけど、今回ばかりはお前が傷つくことになるんじゃないか?売名行為だとか何とか言われて、お前の実力に目を向けられなくなったら、俺だって悲しいよ」

「ううん、僕は全然大丈夫だよ。収録曲の中のたった一曲にだけしか注目が集まらないようだったら、僕の実力はそれまでだったってことだよ。だから、心配なのは沢渡のこと。沢渡が悪く言われるようなことだけにはしたくないんだ」

今は、沢渡がやることなすこと全てに対し、世間が注目する。沢渡が演奏することで僕のアルバムを買ってくれる人があまりにも増えたら、政治家の活動としては公平さが欠けていると思われるに違いない。

「率直に言ってくれよ、俺の演奏は素人に毛が生えた程度なのか、お前の演奏を邪魔しない程度なのか」

そんなこと今更聞くまでもないでしょ?耳が肥えていらっしゃる陛下も殿下も、もちろん王宮の楽士の先生も、賞賛の拍手を送ってくださっている。沢渡が心配している意味で目立つわけなんて、あるはずがない。

「だったら、最終判断は結城に仰ぐけど、前向きに考えるよ。唯一無二の親友のために一肌脱ぎたいから。・・・誘ってくれてありがとう」

よかった。・・・そして、もう一つのほうは?

「でも、今回はクラシックでがっちり固めたほうがいいんじゃないか?コンクールで優勝してすぐのアルバムなんだから、買ってくれる人もお前のテクニックや表現力を期待していると思う。そしてそこで評価を得られたら、本当にやりたいことも楽にできるようになるんじゃないかな?」

まずはきちんと実力を見せておけ、と。それはもっともな気がする。これまでの集大成としての作品を残しておきたいという気持ちもある・・・。

「ありがとう、モヤモヤが一気に解消したよ。さすが沢渡だね」

「お前の考えそうなことくらい分かる。・・・でも他の相談はヴァイオリンのことが落ち着いてからにしようか」

・・・だから、どうしてそのことにまで気づいているわけ?

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