「奥本くんが何を言ったか知らないが、私は沢渡くんをまだ表舞台には出したくない」
陛下がはっきりとおっしゃり、僕の希望は消え失せた。陛下には頑固なところがおありになり、一度おっしゃったことは、なかなか撤回なさらない。・・・僕が家に帰りたいと泣いていた、あの時もそうだった。
それでも今日は、結城からいろいろ仕事について頼まれごとがあったので、少しは役に立てている気がした。
「お前のことはちゃんと認めているから。ただ、もう少し待ってくれ、な」
結城は、僕が欲しがっていた言葉と抱擁をくれた。
「お前、また背が伸びたな」
・・・もう、急にそんなことを言って。気が抜けてしまうじゃないか。
「結城まで伸びると、ちょっと行き過ぎかな?」
結城は190センチ、僕は今178センチ。・・・なんて話をここでしている場合?
「心配するな。俺に近づいてきたら、上から押さえるから」
ダメだよ、そんなことしたら怒るからね!・・・結城はきっと、自分が追い越されることが面白くないだけなんだ。
そして夜には、兼古先輩から電話がかかってきた。
“二人してお前に迷惑をかけたから、お詫びをさせてもらうよ”
確かにすっかり巻き込まれてしまいましたが、お詫びをしていただくほどでは・・・。
“だから明日、楽しみにしていてくれていいよ”
そうですか、それはありがとうございます。
実は僕も、昨夜有紗さんにあれこれ質問をしてみた。男と女はどう違うのか・・・。でもそこで思ったことは、お互い不完全だから求め合うということ。そしてそれは、男女間だけでなく、同性の間にでも起こりうるということ。
そしてもう一つ、先輩たちとのことで分かったことは、他人のゴタゴタに巻き込まれるのは結構面白いということ。高校に入学する前には、自分のことだけしか考えていなかった。また他人のことを考える必要もなかった。だから今、誰かから必要とされたり、はたまた愛されたりすることが新鮮でたまらない。確かに面倒なときもあるけれど、やっと僕は良くも悪くも人間の本質に近づけているような気がするのだ。