何となく手持ち無沙汰な僕・・・。父と兄は仕事に行った、つまり母と二人きり。もちろん仕事はいくらでもあるが、どうも落ち着かない。
・・・入学式は明日に迫っている。クラスメートたちと仲良くなれるだろうか?でも親しくなりすぎると、秘密を隠したままでいるのは辛くなるだろう。僕が次期皇太子であることは、まだ世間には公表できない。内定というだけで、決定ではないし、今後の僕の仕事振り如何で状況が変わることだってあり得る。それに、平穏な高校生活を約束してもらえなくなるのも困る。
コンコン。そんな時、ドアのノック音が響いた。
「お出かけするんだけど、付き合ってもらえないかしら?外出しても構わないって、結城さんはおっしゃっていたわよね」
そうだ。まだ今の段階では僕のことを知る人は誰もいない。逆に、明日になれば少なくともクリウスの学生には顔を知られるわけだから、今日がチャンスなのかもしれない。
「どこに行くの?」
「さすがに希をスーパーには連れて行けないでしょ?美術館なんかどうかなって思って」
それなら、外の空気も吸えるからよさそうだ。
それにしても、母と二人で外出だなんていつ以来だろうか?隣で母は嬉しそうにして、時折僕に微笑みかけてくる。考えてみれば、母とだけでなく家族で何かしたことを思い出すのは難しい。唯一、兄は僕の尊敬する人で、いろんなことを教えてくれた。そして僕に対しても、変に構えたりしないで自然に話をしてくれるのだけど、今は仕事がとても忙しくて、あまり家にいないそうだ。
「希が帰ってきてくれて嬉しいわ。こんなハンサムに育ててくれるなんて、王宮には感謝してもし足りないわね」
はい?
「凄いわね。女の子たちがみんな希のことを振り返るわ。・・・高校では大変よ」
え?まあ確かに視線は感じるけれど・・・僕はもう、良くも悪くも、見られることは気にしないことにしたんだ。こう思えるまでは相当時間がかかったのだけど。