ならば、と僕は一人で外出してみることにした。僕が一人で街を歩くなどということは初めてのようなものなので、緊張する。電車の乗換えで間違ったりしないか心配だ。
今日はカジュアルに決めてみようと思って、黒のパンツに黒のニットを合わせ、薄いブルーのスプリングコートを羽織った。少々風が強いのが気になるけれど、暖かくて心地よい春らしい陽気。今までは世間知らずの僕のために、結城や側近の加藤がついてきてくれたのだけど、僕も普通の国民にならなくては。
確かに若者たちは少人数の群れで行動しているようだ。しかも服装を見ると・・・カジュアル度が違うみたいだ。大体僕は年より上に見られるみたいだけど、加えてこの服装は他の人と合わないような気がする。しかし僕が通うのはクリウスだ。クリウスの学生はハイソで、車の送り迎えが基本。よって街中ではなかなか制服を拝めないと有名なのだそうだ。そんな彼らの普段着はいかに?・・・でも学校だけの付き合いなら、それも関係ないのかもしれないけれど。
しかし地下鉄からの出口を間違ったのか、急に人気のないところに出てしまった。広がるのはただ廃墟のような建物のみ・・・。ここはどこなんだ?聞いてみようにも人がいない。仕方がないのでモバイル機器を取り出して家までの行き方を調べてみると、何やら全然違うところに来てしまった模様。辺りは薄暗くなってきて不気味な雰囲気が漂っている。これが本当に首都なのか?さっきまでの喧騒はなんだったんだ?
しかしこうなると逆に、探検してみたくもなる。普段は見れない裏の世界を見るのはいい社会勉強になる。そして、足を踏み出そうとしたが、急に背後から声がした。
「沢渡さん」
・・・加藤。ついて来ていたのか。
「ここは危険です。お戻りください」
結局僕は一人になれないのだ。その束縛は心地よいものではあるが、時々は煩わしいものでもある。だから世間知らずから卒業できないのだ。