もう、クラスの訳の分からない空気は極力考えないようにしようと思った。しかしそれだけで気持ちが随分楽になった気がする。
早速放課後に朝霧と共に演劇部の部室に行くと、早くも見学者が何人かいた。・・・割合的には女の子が多いようだ。でも、公演のビデオを見せていただいたら、その理由も納得できた。部長を務めているという望月先輩が、男の僕が見ても惚れ惚れするくらいキマっていたからだ。加えて昨日もお会いした兼古先輩。・・・なるほどね。
でも観進めていくうちに、安心もした。コメディータッチの作品だったけど、プロットがしっかりしている上に、役者それぞれの芸も細かくて観ごたえがあった。逆に僕などが入っても大丈夫なのか?と思ってしまうくらいだ。
そして部長から、活動内容や部員の紹介と、次回作に対する意気込みを聞かせていただいた。
「次のコンクールでの上演作品は、演劇部が一つの作品を作り上げるまでの舞台裏を、そのまま見せてしまおうというもので、もちろん真剣に全国大会での優勝を狙っています。経験の有無は問いませんが、中途半端な気持ちの人はお断りします。だから、本気で俺たちについてきたいと思っている人だけ、オーディションに来てください。お願いします」
・・・いかにも役者な人だ。さっきまでビデオで見せていたおちゃらけた雰囲気とは打って変わって、厳しい眼差しを突きつけてくる。・・・気に入った。こんな部長になら、ついていきたいと思う。ますます演劇部に入りたいという気持ちが大きくなってくる。
「沢渡くんも、入部希望なの?」
ふと話しかけられたので振り返ると、同じクラスの上柳さんだった。
「うん。頼もしい部長だね」
「私も演劇部に入部したいの。経験はある?」
「いえ、残念ながら・・・」
「そう。・・・でも同じ部員になれたらいいね」
彼女は、いかにも15歳らしく、あどけない笑顔を見せてくれた。