「これってやっぱり、少し練習したほうがいいのかな?」
朝霧が言い出したら僕も不安になって、今日もまた演劇部の部室に行ってしまった。やはり昨日部長がああ言ったからなのだろう、昨日見かけた人が何人もいる。となると、僕たちも来てよかったわけだ。
今日は昨日のような紹介に加えて質問コーナーがあり、早速僕は手を挙げた。
「オーディションはどのように行われるのか、教えていただけませんでしょうか?」
すると部長が答えてくださった。
「演劇部では伝統的に別れのシーンを演じてもらうことになっています。参加者の中からペアをつくりどちらかが別れを告げることになりますが、設定は自由なので、待ち時間にそれぞれ打ち合わせをしてください。なお、男女どちらかが余った場合には、部員が相手をします」
・・・マズイな。今までに女性に別れを告げたことも、告げられたこともないよ。
「沢渡にないのに、ましてや僕にあるわけなんてないよ」
確かに。しかも相手は当日になるまで分からないから、どう準備したらいいのかもよく分からない。
仕方なく、僕たちはレンタルショップで泣ける映画を借りてきて、家で一緒に観ることにした。
「朝霧、女の子の役やってよ」
「嫌だよ。沢渡こそ、髪が長いんだから女の子の役をやってよ」
・・・男二人、一つの部屋でお互いを女の子に見立ててセリフを考えているなんて、かなり怪しい。
「やめやめ。想像は頭の中だけにしておこう」
せめて、いろんなシーンを見て予習して、状況に応じた演技ができるようにしておくことにしよう。