朝霧が意外なほどソツなくこなしたのを見て、余計に緊張してきてしまった。もともと彼は芸術家なのだ、自分の世界を作り上げることに関しては長けている。
「沢渡くんは、私のことなんてほっといて」
はいっ?抽選をしたら運良く上柳さんとペアになったので、経験者である彼女に場面設定を任せた。
「私が告白するんだけどフラれることにしようと思うのよ。だから沢渡くんは、私には全く興味がない素振りをしてくれる?」
「え、ちょっと待って。上柳さんは僕にどんなことを言うの?」
一応、心の準備というものが・・・。
「それはその場にならないと分からないよ、即興だもん。でも、私はずっと長く秘めていた想いを口に出すわ。それに対して沢渡くんは・・・、本当に困ったら何も言わなくていいよ。ただ冷たい目で私のことを見てくれる?あとは、私がうまくまとめるから」
・・・凄いなあ、そこまで余裕があるなんて。僕には、その状況を想像することさえも難しいのに。・・・しかし、出番は迫ってきている。
僕は一つ深呼吸をして、ステージの中央に進んだ。閑散とした講堂。ステージの下には長い机が一列にいくつも並べられ、二、三年の部員が僕たちをじっと見ている。
「沢渡希です」
「上柳まゆこです」
「よろしくお願いします」
そして僕たちは少し離れて向き合った・・・!
何だろう、この感覚は。・・・場所は夕方の公園。遠くには噴水の音と子どもたちの楽しそうな声が聞こえる。僕は呼び出されたその場所に着き、相手がどこから来るのか、目で追う。そこへ思いつめた表情の彼女が現れ、僕のことを見つめるが・・・、僕は彼女に関心がない。僕は彼女に関心がない・・・。