何やら人目を引く新入生がいる。その噂は瞬く間にクリウスの2,3年校舎に広がった。しかしみんなの興味の的は、芸能人ばりのルックスや高校生とは思えない落ち着いた雰囲気ではないらしい。
今日は委員会に顔を出していたので、部活に行くのが遅れてしまった。オーディション結果は昼休みに張り出されたので、すでに新入部員を迎えての最初のミーティングが始まっていることだろう。静かにドアを開けて入っていくと、いる、いる。
「入部早々すみませんが、3年生は来週から修学旅行に行きますので、その間に、1年生それぞれの素質を見るためのビデオドラマの撮影をしてもらいます。脚本はオリジナルを書いてもいいし、既存のものを使ってもらっても構いません。その辺りは、過去の作品を観て考えてもらうと共に、2年生と相談してください。一応責任者は2年の清水さんと兼古くん、1年生は村野さんと、上柳さんにお願いしたいと思います。今のメンバーは後で少し残ってください・・・」
オーディションの後、2,3年が集まって審査をしたのだけど、演技に関しては飛び抜けてうまい人はいないという意見が多かった。それでも全体的なレベルは上がっているし、主役を張れそうな男女もいる、脚本を書ける人もいる。後はどのように育てていくか、だ。
「なあ祐輔、それで、沢渡ってナニモノ?」
部活が終わり1年が部室の掃除の仕方を習っている様子を見ていると、部長がこっそり聞いてきた。
「俺に聞かないでくださいよ。生徒会長からも調査依頼が来たくらいなんですから」
会長が知らないことを俺が知っているわけがない。こっちが聞きたいですよ。
「育ちはよさそうだよな。身のこなしといい、所持品といい、あのピアスといい・・・」
みんなが不思議に思っているのは、普通ある程度家柄が良ければ横のつながりがあるのに、彼を知っている人が誰もいないということだ。ましてや、中学が同じだったという人もいない。加えて、彼自身に何かしらのオーラがある。よって、迂闊に口を聞けない、と。
「でも、そんなことは関係ないでしょう?問題はアイツ自身がどんなヤツか、ですよ」
まあ確かにな、と部長がまた彼の様子を盗み見る。・・・いくら親が偉くたって、子どもには関係ないんですよ。