「浮かない顔ね。撮影は無事に終わったんでしょ?」
隣から有紗さんが、指で僕の頬を撫でてくる。
昨日、僕は上柳さんに事情を聞こうとしたのだけど、「何でもないの」と軽く突っぱねられてしまった。その様子からして更に、何でもないことはないのは確実だと思ったのだけど、そんな時にかけてあげられる言葉が見つからなかった。結局撮影中はさすがにそんな様子を見せることはなかったので無事に終わったのだけど、彼女は今日もそそくさと帰ってしまい、後味が悪いままだ。
「僕にはよく分かりません。・・・女の人はそう簡単に態度を変えられるものなのですか?」
いや、それよりは、やはり何かあったと考えるほうが妥当なのだろうけど。
「私に他の女ことを相談をするの?」
あ・・・。
「いえ、相手が有紗さんだという安心感からですよ」
「どうかしらね?希は、私が傷つかないとでも思っているの?」
「いえ、そんなわけでは・・・」
とんでもない。僕はやっと有紗さんという安らぎを見出し始めたところなのに・・・。
「軽率だったことは謝ります。すみませんでした」
「お詫びにキスを・・・」
はい。・・・僕はその悪戯な手をつかまえて、彼女に口付けた。
「しょうがないわね・・・まだまだ子どもなんだから。そして、そんな希は更に子どもな高校生相手に頭を悩ませているのね。・・・気にしないことよ。あなたが何かしたわけではないんでしょ?」
「はい・・・、心当たりは全く。入学当初から親切にしてくれていたのですが、急に僕を避けるようになったのです。・・・僕はそれでも構わないのですが、彼女に何かあったのではないかと心配で」
「お節介ね」
え?・・・急に有紗さんはイライラと僕に当たり始めた。
「やっぱり許してあげない。例えばその子が他の子から何かされたとしましょう。あなたはその子を守ってあげるつもりなの?」
「そのくらいはしてあげたいですよ。彼女は友達なんですから」
「そんなことをしたら、絶対その子は勘違いするわ。あなたが好きになってくれたんだって」
「・・・そんなことありえません、ただのクラスメートですよ。高校生相手にそんなに狭量にならなくてもいいんじゃないですか?」
有紗さんは、僕の手をパシッと払いのけて立ち上がった。
「狭量で結構よ!私はあなたのことを愛しているのに、それがいけないって言うの?・・・あなたは残酷だわ」
あ・・・有紗さん。
彼女はそのままそそくさと部屋を後にしてしまった。どうしたらいいのか、僕には皆目分からない。