沢渡は何やら仕事に借り出されたとかで遅刻して来た。でも部活には来れてよかった、ビデオ上映会が行われるのだから。
僕は完全に脇役だったので出番はわずかだった。でも僕のことよりも気になったのは、沢渡のこと。演技経験はないのにいきなり主役の一人というのは、いくら普通の高校生とは違った生活をしてきたという彼にしても、緊張のひとときだったようだ。とはいえ、撮影風景を見ている分には全然そんな素振りは感じられず、僕はついついその演技に引き込まれていた。だから、通して見れることが嬉しい。
それにしても、自分の演技を見るのは恥ずかしい。自分が演奏をしている様子すら見るのが嫌なのに・・・。それに比べ、主役級の人たちは高校生とは思えない演技力で魅せてくれる。沢渡と上柳さんなんて、本当に惹かれ合っていたみたいだった。・・・拍手。
「なかなかよくできていたと思います。2年生もよくやってくれました。これをもとに、コンクールに向けての脚本を書き直して、2、3日中には渡しますので、お願いします。まだざっと見た感じですが、1年生にも何人かには台詞のある役についてもらいますので、そのつもりで」
部長がまとめて話してくださった。・・・ですよね、いい作品でした。演劇には今まで全然と言っていいほど触れる機会がなかったけれど、この部はチームワークもいいし、楽しいと思うようになってきた今日この頃。
「悪いけど、今日は先に帰って」
何やら少々厳しい顔をして、沢渡が言った。それは別に構わないのだけど。
「大丈夫?」
え?・・・あ、うん、と、珍しく歯切れの悪い返事。でもすぐさま彼は離れて行ってしまったので、僕も帰ることにする。彼にはたくさん考えなければならないことがある。時には機密事項ということで話せない事柄もある。でも僕も、出来るだけヴァイオリンの練習に励みたいので、お互い様だ。
荷物を片付けて部室を出ようとするとき、彼が上柳さんに話しかけているのが見えた。・・・美男美女カップル。でもどことなく上柳さんの表情が冴えないように見えるのは、僕だけだろうか?