5/5 (火) 22:30 友達

僕は小さい頃からヴァイオリンを習っていて、すでに小学生の時にはいくつもの賞を獲得していた。そんなときに王宮から招宮通知をいただき、そのまま入宮することになった。

王宮のシステムは政官、楽士、仕官に分かれている。政官は沢渡が属するところで、国王陛下を筆頭に国の政治を行うのが仕事だ。我が国は世襲制ではなく能力制で、普通は高校卒業以上の希望者が試験を受けて入宮する。しかし、政治の偏りを防ぐために、政官と一般国民から選出された議員によって議会は成り立っている。

楽士は音楽を志す人のことである。国から一流の指導を受けさせてもらえる代わりに、晩餐会などで演奏する。他にも芸術家を育成するコースはあるのだが、宮殿で生活することを許されるのは、ごく一部だ。そして仕官は、加藤さんのように高官の身の回りの世話をしたり、食事を作ったりする人である。

しかし沢渡は、実験的に幼少から教育してみることになり選ばれた。よって幼稚園卒園と共に入宮し、家族と引き離され、宮殿で英才教育を受けてきた。しかし結果的には失敗だった。今でこそ沢渡はその苦難を乗り越えたが、カリキュラムがよくなかったらしく、一時はかなりひどい状態になっていたようだ。そこで僕が、楽士として入宮できるのは本来は中学卒業以降なのだが、例外的に招かれたのである。何しろ宮殿の中には大人ばかりで、同世代と話す機会がなかったからだ。

初めて会ったときの印象は、よくなかった。話には聞いていたが、全くと言っていいほど子どもらしさがなかった。でも僕には、彼が寂しいのだということが分かった。ヴァイオリンを弾いてあげると、その生意気そうな表情は見る見るうちに崩れ、うつむいて、肩を震わせたのを今でも覚えている。そのうち、僕たちはケンカしながらも友達になり、彼の部屋に行って話したり、彼と楽器を合わせたりするのが楽しくなってきている。

そんな彼から、夜電話があった。

「上柳さんが、ある女の子たちから、僕と親しくしすぎていると言われたそうなんだ。今日やっと話してくれたよ。だから、何か悪いことをされていないかどうか、彼女のことを時々気にしてあげてほしい。僕は明日その子たちに注意するよ」

・・・そうか、それが原因だったのか。・・・沢渡って上柳さんのことが好きなのかな?いつも思うのだけど、彼は思っていることが表情に出にくいから難しい。これでも友達としては随分分かるようになったのだけど。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です